10000 | ナノ


すみません、ちょっとしか守れなかったです。



シャルってこんなにも酒癖が悪かっただろうか。肩を組まれだらしなく私に凭れ掛かるシャルの顔を見ながら思う。


「ナマエ〜」
「はいはい、ここにいるよー」


語尾にハートでも付いてるんじゃないだろうかと、それくらい甘えた声だった。これ、珍しく“あの”シャルが酔ってるということが目に見えてわかるわけだが、もしシャルが酔ったときのことを覚えているタイプだったら恥ずかしさで死にそうだなぁ、と小さく笑いが漏れた。記憶力のいいシャルのことだ、覚えている気がする。


「ほらシャル、アンタ重いんだからナマエから離れな」
「これくらい大丈夫だよマチ」
「ねー?」


首を傾げて嬉しそうに言うシャルの笑顔はなんか、こう、母性本能を擽るものがあった。ていうか、今の、ねー?はずるい。デレッとしそうなのがバレたのか、私が今のシャルに絆されると思ったのか「しっかりしなよ」とシャルが凭れ掛かってるほうの反対側にいるマチから肩を叩かれた。


「というか、なんでコイツがいるんだか」
「まあまあ、いいじゃん」
「何がいいんだい」


不機嫌そうな顔でマチは残り少ない酒を煽った。マチがどうしてこんなに不機嫌そうなのかは聞かなくてもわかる。元々は、珍しいジャポン酒を手に入れたから一緒に呑もうとマチから誘われたのは私だけだった。それをどこからの情報なのか、シャルが聞き付けてやってきたのだ。私は別に誰がいてもよかったのだがマチはそうではないらしく、さらにそれがシャルだったのが気に入らないらしい。


「…マチってそんなにシャルのこと苦手だったっけ?」
「別に苦手でも嫌いでもないよ」
「じゃあ一緒に呑んでもいいじゃない」


そりゃまあ、ジャポン酒の持ち主はマチだから決定権はマチにあるんだけど。それでもどうしてここまで嫌そうにしてるのかがわかあなかった。それはシャルの目的がジャポン酒じゃなくて、と何かゴニョゴニョ言っているが、残念ながら隣のシャルが邪魔をしてよく聞こえなかった。


「ナマエちゃんと呑んでる〜?」


いつもしないスキンシップをしてくるシャルに呑んでると私のグラスを見せれば、満足したのかにっこりと笑った。それにしてもほんと酔ってるなあ。もしかしてジャポン酒は呑み慣れていないのか?度数も高いうえに呑み慣れない味だったのならこうなるのも頷けるかもしれない。この様子じゃ明日きついかもしれないし、水を飲ませたほうがいいかなあ…うん、そうしよう。思い立ったらすぐ行動、ということで立ち上がろうとして未だ私に凭れているシャルに声を掛けた。


「シャルちょっといい?」
「え〜?ナマエどっか行っちゃうの?」


そう言ってまるで自分の可愛さをわかっているかのような、狙ったかのような、そんな上目遣いで私を見つめてきた。それを見ていたマチは、うえっ と吐くようなふりをしていたが私には爆弾が落とされたようなものである。普段シャルは背高いから上目遣いとかしないし、こんな甘えたようなことはしないくらい格好いいのに、ずるい。顔に熱が集まるのを感じた私はピッタリとくっついているシャルを振り切る勢いで立ち上がることにした。

――が、


「だぁめ」


グンッと腕を引かれて、ちゅ、と軽くリップ音。はて、今の唇に当たった柔らかいものはなんだったのか。それを考えるよりも、シャルって酔ってるのに力強いなあ、なんて逃げるように思考をそちらへ持っていく。ふふふ、と悪戯が成功したような子どものように笑っているシャルの声が耳に届いたが、それは鬼のような顔をした(というのは失礼かもしれないが本当にそんな顔の)マチの拳骨によってすぐに聞こえなくなってしまい、気付けばシャルは床とキスするかのようにうつ伏せで倒れていた。

二日酔いはセットです。
後日、ジャポン酒は今後呑まないとシャルが言っていたと人伝、というかマチに聞いた。やっぱりジャポン酒は合わなかったんだねと笑えばマチからそういう理由じゃないと訂正されてしまったが、その肝心な理由の部分は教えてもらえなかった。

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