10000 | ナノ


カイトからジンさんを見つけたという報告がきて以降、ジンさんの仕事に引っ張られていくことが多くなったと電話越しで聞いたのはつい最近のことだったような気がする。


「いや、私にだって仕事があるんですから無理に決まってるでしょう」
「んなもん今から全部断れ」
「無茶苦茶なこと言わないでください」
「明日から半月は俺の元で働いてもらうから」


現住所を教えた記憶のない目の前の人物に横暴だと文句を言おうとすると、ハイ決定ー、とお気楽な声が響いた。ジンさんの前ではジンさんがルールだということを私は嫌でも思い知らされたが、さすがに突然現れ突然仕事を手伝えと強制的なそれに対して、なんて自分勝手な人だろうかと頭を抱えた。

しかし断ったところでわかったと簡単に諦めてくれるほど話のわかる師匠ではないことがすでに先程の会話で証明されていた。

こうなってしまったからには仕方がない。私は半月の間に入っていた仕事が何件あるのかを確認した。よかった、二件だけだ。安堵の息を吐きながらすぐに依頼人に電話をし、訳を伝える。もう日付が近いことから依頼人は不満の声をあげるが、代わりに別の適任者を紹介するとなんとか了承を得た。この時、前の世界での癖が抜けずに電話越しで思わず頭を下げる私を見ていたジンさんはポツリ、変なのと呟いた。誰のせいだと思ってんだくそ師匠。


「……言っときますけど、働いた分お金いただきますからね」
「うわ、お前師匠から金巻き上げるのか」
「だぁ〜いじなお師匠様から巻き上げるなんてとんでもない!ただ私は働いた分きっちりいただくだけですよ」


にっこりと笑えばジンさんの顔が歪んだが、そんなこと知ったこっちゃない。私はそんな顔一切見てないぞ。だってジンさんのせいで私の生活費が今まさに削られようとしてるのだから。

そんなこんなで話がまとまり、明日の朝どこに集合かを伝えるとジンさんはフラフラといなくなってしまった。あんな人を見つけるのが試験だったカイトは大変だっただろうな。そんなカイトの苦労を考えながら最低限必要そうな荷物をまとめることにした。


*


「カイトいるじゃん」
「よう」


私はてっきりカイトがいないからジンさんに呼ばれたのかと思っていたのにどういうことなんだこれは。しかも超自然にようとか言っちゃって何なんだお前は。


「半分はカイトのせいで今回の仕事強制参加させられたようなもんなんだけど」
「会っていきなり文句か。しかも俺の」
「だってカイトいないから呼ばれたのかと思って仕方なく私が折れたのに…いるなら私いらないじゃん」
「そうでもねーぞ」


私の後ろから聞こえてきた声に嫌そうな顔で振り向けば、自己中の塊とも言える我らが師匠、ジンさんが立っていた。相変わらずいつからいたのかわからない人だ。そうでもないと言われたってことは、


「……私の能力当てにしてます?」
「あー…いや、それは一割、二割程度だ」


ということは多少力仕事なんだろうな、と思わず溜め息が漏れる。カイトとジンさんでも人手が欲しいような仕事をか弱い乙女にさせようとするなんて。しかしここまできてどうこう文句は言えないため、そうですか、と返事をするだけであとは心の中でだけ呟くことにした。


「そういえばどんな内容か聞いてないんですけど」


そう言った瞬間、カイトの眉が少し動いたのを私は見逃さなかった。


「……カイトも嫌がるような内容なの?」
「いや、そういえば俺も聞いてなかったから気になるなって思っただけで」
「嘘が下手だねカイト」


ぎこちない笑顔のカイトとは別の、にっこりと笑顔を向ければ言葉が詰まったかのようにそのままの顔で固まってしまった。うん、素直なカイトが私は好きだよ。仕事となると切り替えができるカイトだが、オフの、こういうときのカイトはすごくわかりやすい。相変わらずだなあ。なんて、ふふふと笑っていると、ジンさんは ここまできたらもう逃げられないし大丈夫だろうと物騒なことをポツリと呟いた。そのせいで今度は私がそのままの顔で固まってしまう。やはり嫌な予感がする。このまま仕事内容なんて聞かないで荷物も放り出して逃げてしまおうか。


「逃がさねぇよ?」


ジンさんって読心術の達人だったんですね!帰りたいです。そう言いたかったが私の肩をしっかりと押さえるジンさんの手と、悪巧みしてそうな表情がそうはさせてくれなかった。カイトはカイトで何とも言えない表情である。あの表情からすると、カイトは仕事内容を聞いていたが私にバレると絶対私が参加しないだろうからジンさんに口止めされていたといった感じだろうか。


「……肝心の仕事内容は」
「ヨルビアン大陸で数日前でけえ岩なだれが起こったらしくてな、機械で岩を退かそうにもそれがまたデリケートな場所らしくて人手じゃねえと駄目なんだとよ」
「機械を使うほどで、さらにハンターに頼むほどの岩ってことは、それなりにっていうかかなりでかいんですかね」
「だからお前の念能力が必要だっつってんだよ」
「………で、ジンさんの目的は?」


それが仕事を受けた本当の目的ではないだろうと問えば、よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりの顔を向けられた。…ああ、嫌な予感がムクムクと膨れ上がってる。


「最近体鈍ってねえか?」
「…別に仕事で動かしてるからそこまで」
「仕事で使う筋肉と念だけだろうが」
「もし鈍ってたとしてもそれだけあれば仕事には十分ですよ」
「そーか、そーか。だから俺が体力面を鍛え直してやろうと思ってな」


なにがだからなのか説明していただきたい。ジンさんは諦めて、バッとカイトのほうへ目を向けると、一言。「すまん」と謝られた。

もうやだ、帰りたい
期待なんて、していませんでしたとも。これっぽっちも。

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