10000 | ナノ


ある日突然、本当に突然、ジンさんの思いつきでパドキア共和国に行くことになった。場所が場所なのであまり乗り気にはなれないものの、ジンさんが言い出したので止められるわけもなく、渋々いつもの真っ黒な帽子を被った。


「パドキア行ってからの予定とか決めてるんですか?」
「そんなもん一切ねえ」
「行き当たりばったりってことか…」


どうしてうちの師匠はこうも適当な性格なんだろうかと私とカイトは溜息をこぼす。普段は修行のためにとジャングルに籠り気味な私達は街の活気の良さに呑みこまれそうになった。それを物ともせずに店の主人と楽しそうに笑うジンさんはさすがといったとこか。そんな姿を見ていると私も段々楽しくなってきて、珍しく街に出たんだから食料を買い込んどくかとカイトを連れて市場へ向かった。


「これとこれと…あ、あとこれも」
「……ナマエ、そんな買い込んでいいのか?」


カゴの中へ次々と食料や調味料などを入れているとカゴ持ちをしてくれているカイトから止められた。えーだってまた当分の間はジャングルに籠ることになるんでしょ?それならいいんじゃないだろうか。


「カイトがお金の心配してるなら大丈夫だよ。財布という名の師匠がい――」
「おい、師匠の扱い間違ってんぞ」


ゴツンッと鈍い音が脳に響いた。タイミングよく現れるもんだなあ、なんて涙目になりながら財布兼師匠、元いジンさんを見て笑えば呆れたような顔をされた。でもまあ、こんなこと言っても買ってくれたりするから優しいなと思う。というか私達の中でも一番食べるのがジンさんだ。食費に関しては太っ腹である。

一通り買い物も終わり落ち着いたところで、さてこの後どうするか、というなんとも計画性がない会話が始まった。私自身、買い物さえできればそれでよかったのであとは好きにしてくれという感じだが。


「そういえばここ、あのゾルディック家が観光名所らしい」


有名な暗殺一家は大変だなと笑うジンさんに、それ本当に暗殺一家なのかとカイトはなんとも言えない顔で尋ねていた。そりゃそうだ、暗殺者の家が観光名所と知れば誰だって不思議に思うに決まってる。行ってみるかとジンさんが言わないことだけを願っていると、後ろからトントンと肩を叩かれた。


「ねえ、君くらいの身長で銀髪の子ども見てない?」


噂をすればなんとやら、イルミさんじゃあないですか…。私それらしいフラグとか立てたか?ていうかもうパドキア共和国にいることがフラグなのか。

ジンさんとカイトは相手が念能力者だとわかり警戒するものの、当の本人はそれを気にしておらず、人探しの真っ最中らしい。銀髪の子どもってキルアのことだろうか?いや、でも私と同じくらいの身長?キルアって今何歳?ぐるぐると考えが回るが突然のことにしっかりとした設定を思い出せるわけがなく敵意がないならイルミに聞いたほうが早いという私なりの答えが出た。


「子どもって?今何歳くらいの子ですか?」
「えー…5か6?」
「待て、私の身長がいくら小さいからってそんな子どもと一緒にしないでください」
「うーん、言われてみれば君の方が大きいかも?わかんないや、どっちも小さいし」


小さいといっても155くらいはあるよ私!しかも最近伸び盛りだよ!!とイルミの失礼すぎる答えに心中で言い返した。そんな私の気持ちを察しているのか、ジンさんもカイトも先程の警戒はどこへ行ったのやら、肩を震わせ笑いを耐えているじゃないか。これで声を出して笑っていたらただでは済まさなかった。なぜか私をじろじろ見ているイルミに、ようやく落ち着いたのかフウなんて息を吐きながらジンさんが近寄る。


「俺たちさっきまで市場で買い物してたからその銀髪の子どもは見てないぞ」
「ところで君、どっかで会ったことある?」


ジンさんの言葉ガン無視でこれである。客観的に見ていれば笑ったに違いない私だがイルミの質問先は私。その質問に血の気が引く。会ったことはあるが言ったらどうなるのか怖すぎて答えれない。あなたの暗殺任務のときに会いましただ、なんて。幼い頃のイルミが私の顔を覚えてなかったとわかったのは嬉しいがこんな形でなんて最悪すぎる。ジンさんはジンさんでガン無視されたことに対して、なんだお前ナンパか!と変な文句言ってるし本当に何なんだこの状況は。


「会ったことないです」
「ほんと?嘘じゃないよね?」


顔が怖いよイルミ。そんなことを思いながら、はいと弱々しく返事をすれば、じゃあいいやなんて最初からどうでもよかったんじゃないんだろうかと思うような返事が返ってきた。

これだから嫌なんだ
謀ってもいないのにまるでトリップ特典と言わんばかりに人と会う。

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