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突然この世界に来てしまってから、ひょんなことに旅団に拾ってもらって早数ヶ月。私は思いのほか快適生活を送っていた。快適生活、と言っても旅団のアジトで衣食住の保証をしてもらってるだけで、道楽は一つもない。強いていうならクロロが持っている書物を拝借して読むことくらいだろう。

基本的に朝昼晩と私が料理をすることになっている。というかお世話になっているから私にさせてくれとクロロに頼んだ。それでもここのアジトに残る団員はほとんど無いに等しいのでやはり暇だ。

団員はたまに現れては夕食だけ食べてまたどこかへ消えたり、深夜に寝に来ては朝食だけ食べてすぐ出掛けたり、と様々だが昼食は一ヶ月に一人いるかいないかの確率で誰も食べに来ることがなく、私は一人分だけ用意して、いただきます。と小さく呟くのだった。

ある日掃除をしながら、ふと目に留まった一冊の分厚い書物。こんな本、クロロは持っていただろうか?と軽く首を傾げながら中を覗いてみると痛々しい拷問の内容がつらつらと書かれてあった。時折写真のようなものが掲載されており、それは見たこともない、拷問器具であろうものだった。なんと、まあ。想像するだけで実際に拷問を受けているわけでない私が痛く感じてしまう。しかし悪趣味だと言われようと、こんな拷問方法があるのかと少し興味が湧いてしまっていた。クロロの本なのかはわからないが読ませてもらおう。


「ナマエ、ここにあた本お前見てないか」
「ん?」


掃除も終わり一息ついたところで、昼食を作る前にちょっと読んでみようと先程の本を開いていた私にフェイタンが話し掛けてきた。そういえばいつの間に帰ってきたんだろう。


「そこにあった本?………もしかして、これ?」
「……なんでお前が見てるね」
「いや、放置されてたから見ていいかなあって。これフェイタンのだったの?」
「ん」
「あーそっか。ちょっと面白そうだったから気になっちゃって」


その一言、その一言だけでフェイタンの顔が(といっても目しか見えないが)パッと明るくなったようにも見えた。もしかして今の面白そうという言葉のせいで何か勘違いされたかもしれない。しかし誤解を解くために、拷問を実際にするとかそういうのには興味ないと言えば明らかに機嫌が悪くなるのは目に見えている。だって彼は拷問が好きなのだから、興味ないなんて言われたら自分の趣味を否定されることになってしまう。まあ言いはしないけど拷問が趣味なんて悪趣味だと思うよ。


「ナマエは拷問の素晴らしさがわかるか」
「うーん?わかりはしないけど色んな拷問があるんだなあって」


ページを捲れば鉄の処女や審問椅子など見たことのある拷問器具もあるがそれ以外にも食道責め、コウノトリ、ガロット、ファラリスの雄牛、など色々な拷問方法があった。フェイタンもこういう拷問をしたりするんだろうか、と触れたくはないが気になりはする。


「……フェイタンもこういうことするの?」
「するもなにもワタシこういう道具を持てないよ」
「へ、じゃあどうやってするの」
「……聞きたいか?」


そう言って楽しそうに笑うフェイタンが怖くて、お断りしておきますと言った。もしかすると拷問のときはいつもあんな楽しそうな顔でやっているのかもしれない。拷問対象の人ご愁傷様です。こんな顔されたらさらに恐怖を植えつけられるよ。…よし、今さっきの顔は忘れよう。

気持ちを切り替えるためにも昼食を作ろうと立ち上がれば、フェイタンから自分もいると催促された。フェイタンと二人でご飯なんて初めてかもしれない。そんなことを思いながら了解と笑って言えばフェイタンは私の返事を待つことなく拷問集を読み始めていた。

聞かぬが吉
好きな拷問方法を笑顔で語られたときはどうしようかと思った。

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