2013 | ナノ


ラウさんは仕事だと言って街に出掛けてしまうし、鉄くず集めは朝のうちにやってしまったし、瞑想も先程終えたばかりだし、と話し相手もいなければすること全て終わってしまって暇になってしまった。このまま寝て時間を潰すのもいいかと思ったがそこまで眠くもない。どうしようか、そう考えたとき、ふと流星街の探検でもしようと思い立った。

ラウさんの帽子を拝借して、行くなと言われた場所には行かずにウロウロと歩いていると私がトリップしてきた廃墟と似たような廃墟を見つけた。いや、流星街にある廃墟は割とどこも似てるんだけども。見た目云々というよりそれを纏う周囲の雰囲気がどことなく似てるな、と感じた。

足場が悪いせいで歩くたびに石や砂利を踏む音が鳴った。私以外誰もいないせいか、音が静かな空間に響く。室内は外の光が遮られているせいで思ったよりも暗かった。何かないかと宝探し気分で壁や転がっている岩にぶつからないように注意しながら進めば、扉が一つ。開けてみれば数冊の本が積まれていた。人が住んでいる様子もないというのに、本だけがぽつんと置かれてあって違和感を覚える。


「誰?」


びくり、背後から聞えた声に肩が揺れる。ゆっくりと振り返れば、元々暗い室内だというのにさらに影で隠れていて顔が確認できない。声で女性だと判断できるくらいだ。ここの住人だろうかと考えたが、こんなに足場が悪いところで足音も立てずに歩けるなんて普通じゃありえない。ちょっと、やばいかもしれない。


「……流星街の者です。まさか人が住んでいるとは知らず、無人と勘違いしてしまってこの建物に入りました。すみません」
「…流星街の?」
「はい。最近来たばかりで地形をよく把握してなかったので探検しようと思った次第です」


素直に謝り、訳を説明すれば彼女は何か考えているのか黙ってしまった。嘘は、言ってない。たらり、と冷や汗が頬を伝う。相手が本当にここの住人なのかはわからない。最悪の場合、マフィアかもしれない。帽子を被っていることと、辺りが暗いことだけが救いだろうか。


「……いいわ、あなたを信じる。というよりも、ここには今誰も住んでいないから信じるも何もあなたは悪くないわ」
「……住んで、いない?」
「ええ、数年前に住んでいただけで今は別のとこに移ってるの。ちょっとその本を思い出して取りに来ただけよ」


それは本当なのか嘘なのか、あっさりと信じてくれた彼女に私は一驚を喫する。そんなに簡単に信じてくれるものだろうかと思う反面、信じてもらえたことに、ほっと息をつくと彼女は私の肩に手を置いて口を開いた。


「怖がらせてごめんなさいね。流星街のどこに住んでるの?」
「……ここからもう少し東に向かったところに」


私の返答に、そう、とだけ答えると女性の声は最初と比べると優しく感じたものの、彼女の背が高いせいかやはり顔は見えなかった。住んでる場所を訊かれたから訊き返して話題を増やしたほうがいい、なんて馬鹿なことは考えない。そんなことよりもじりじりと女性から感じる何かから逃げたくて、今すぐこの場を離れたくて、仕方がなかった。

私は、失礼しますとだけ彼女に伝えてその場を後にする。外に出てあの女性の顔がどんなだったのか確認しようとか、そんなことは思わなかった。

あとみよそわか
どうして肩に手を置かれたかなんて考えるはずもなく。

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