団長が突然子どもを連れてきたから何事かと思いつつ、マチほど勘がいいわけでもないのに俺の嫌な予感は的中してた。蜘蛛に子ども預けるなんて常識外れにもほどがあると思ったが預けた相手はゾルディック。常識なんてものは存在しない。思わず溜息がこぼれた。
「シャルー」
溜息の原因であるナマエの声が俺の名前を呼んだ。背後に気配はないが一応振り返ってみるもののやはりいるわけがなかったのでもしかしたら俺を探しているのかもしれない。わざわざ俺がナマエのところまで行くのも面倒臭いし返事はせずに仕事を再開する。そのうち諦めてくれるだろう。カチカチとキーボードを押す音だけが響く部屋に小さな足音が近づいてくるのを感じた。…もしかして誰か俺の部屋教えた?部屋の扉の近くまで来た足音がぴたりと止む。扉をノックされる前に俺が開けると驚いたような顔でナマエは俺を見上げている。
「シャルなんでナマエがいるってわかったの!?」
そう言いながら見上げる顔は興味津々で、俺を恐れている風には見えない。一度団長が俺たちは悪い集団なのだと教えたときも 似たような顔をしていて子どもながら無垢すぎると思った。フェイタンはうっかり殺してしまったことにしようかと考えていたようだがそれさえも予想していたかのように子どもに手を出さないこと、と念を押していた。ゾルディックへの依頼が一つタダになるというのは嬉しいことだからだろう。依頼をしなかったとしても大きな貸しができるわけだし。
「なんでだろうねー。でもここに住んでるみんなもわかると思うなー」
「そうなの?すごいんだね!ナマエもできるようになるかなぁ?」
「それはナマエの頑張り次第かもね。そういえば誰に俺の部屋聞いたの?」
「ウボォー!」
適当に返事をしながら部屋のことを訊けば、何も知らないナマエは簡単に教えてくれた。ウボォーか。と少し殺意が湧いた。こっちはまだ終わってない仕事が溜まってるというのに子どもを押しつけやがって。そうだとしてもなんで急に俺のとこにきたんだろうか、とふと思いナマエをよく見てみれば両手を後ろにやって何かを隠していた。
「何か隠してる?」
「そうなの!あのね、このまえみんながとってきてくれたクマさんがぐあいわるそうなの」
一瞬何のことだと首を傾げそうになったが以前仕事のときにナマエにとクロロかパクが盗ってきていたクマのヌイグルミを思い出した。具合が悪そうということは動かないのかな。あれはネジを巻けば動くようになってた気がするけど。そう思いながらナマエからヌイグルミを受け取ってついているネジをちょいちょいと回してみるが一向に動く気配がない。あらら、壊れてる。その様子を見てナマエは不安そうに俺の顔を覗いてきた。どうせウボォーが俺なら直せると言ったんだろうな。
「シャル…クマさんげんきになるかな?」
「うーん、5分もあればなると思うよ」
俺がそう言うとナマエはいつものように顔をパッと明るくさせた。ま、5分もかからないと思うけど。仕事の息抜きにもならないだろうなと思いつつ椅子に座って引き出しから道具を取り出す。背中に付いているジッパーを下ろし機械の部分をいじっていると目を輝かせてそれを見つめるナマエ。何しているのかわからないだろうに見てて面白いんだろうか。そうこうしているうちにあっという間に作業が終わった。今度こそ、とネジを巻いてみるとヌイグルミの手が動き出す。
「これで大丈夫」
「わあ!ありがとう!」
「また動かなくなったら持ってきなよ。直してあげるから」
「うん!シャルはおもちゃのおいしゃさんだね!」
無邪気に笑いながら突然変なことを言い出すナマエに驚き目をぱちぱちと開閉させると、シャルへんなのー!と笑われてしまう。誰が変だって?と追いかける素振りをしてみればきゃっきゃいいながら走って逃げてしまった。
最初は嫌だったけど、案外可愛くみえてきちゃったんだよなぁ。