ごちゃまぜ | ナノ

ポケモン、それは大人から子供まで馴染みのある生物だった。

トレーナーになるのは10歳からという決まりがあったが、誰しもが幼い頃からポケモンを持っていた。まあ、トレーナーと名乗らなければいいのだろうが、あちらこちらでトレーナーだと言って勝負を仕掛ける園児も少なくはなかった。要は、バレなければいいのだ。

だからといって私もその“バレなければいい”と考えて幼い頃からポケモンと一緒に勝負をしていたかというとそうでもない。むしろ私はポケモンバトルという、その行為自体、何が楽しいのか全くもって、これっぽっちも、わからなかった。

勝った時の高揚感?自分は強いんだという優越感?何が彼らを動かしているのか、その原動力はよくわからないが、わかろうとも思ってなかったので考えるのをいつしかやめていた。だって、戦うのはポケモン達じゃないか。


私の住んでいるライモンシティはまさにバトル好きのための街とも言える。リトルコートにビックスタジアム、トライアルハウス、そしてバトルサブウェイ。こんなにも大々的にある施設に人が寄らないわけがなかった。しかし最初に言ったように、私はポケモンバトルに興味がない。一匹でさえ、手持ちとしていなかった。だから私からすればこんな施設は不必要であり、邪魔でしかなかった。これのせいで、どれだけ嫌な人混みにもみくちゃにされたことがあるか。とくにバトルサブウェイなんてそんなふざけたもの誰が考案したんだ。地下鉄は地下鉄だけの働きをすればいいのに。


今日もその地下鉄には人が溢れていた。今の時間なら家に帰る人も多いだろうが、それでもいつもと比べれば多すぎる。何かあったのかと思考を巡らせ、そういえば今日はスタンプラリーの最終日だと思い出した。

気分がだだ下がりしつつある私とは裏腹に、モニターを見てなにやら興奮気味に話す人だかり。もみくちゃにされるのは嫌だが、こうもわかりやすく人だかりができていると気になってしまうものだ。出来上がってしまっている人だかりの少し後ろに回り、みんなの目を釘付けにしているソレに視線を移した。


『シャンデラ!シャドーボール!』


凛としたその声に胸が、どきり、とした。あれはたしか、ノボリさん、だったか。ポケモンのことに疎い私はトレーナーに関してもそうだった。この街に住んでいるのだからさすがにジムリーダーくらいは知ってるが、それは彼女が有名なモデルでもあり、ジムリーダーでもあり、だったからだろう。

そしてモニターに映る彼もそう。モデルではないが、たまに見かける雑誌に載っていたからこそ、辛うじて知っていたようなものだった。

“ノボリクダリ”という白黒車掌の双子は長身で美形、さらにサブウェイマスターときた。そんな完璧な二人を人は見逃すわけがない。ポケモンを持っていない私の友人でさえもかっこいいと言いながら雑誌を抱き締めるほどだった。


何がそんなにいいのか。今まで思っていた疑問はモニターに映し出されている彼を見ていれば簡単に解かれてしまった。制帽から覗く強い瞳とにこりともしない口元、スラリとした長い脚。確かに、かっこいいかもしれない。あそこまで笑わない口はいつもならば悪い印象を持つ私だが、今回はそれがなかった。むしろ、かっこいいと、良い印象が植えつけられたのだ。


彼の口から次々と出てくる技の名前がどういうものなのか私は知らないけど、その言葉を聞いているだけで胸の奥に片付けていたはずの感情が、顔を出し始めた。まるでお互いをわかっているかのように、息の合ったプレーで相手に技を当てるその姿は、私の胸を躍らせるには十分すぎるもので、あっという間に時間が過ぎてしまう。


『焼き尽くす!』


その一言、勝利を確信した彼の口元は先程まで硬くへの字に曲げられていたものとは違い、薄らと浮かぶ笑み、誰が見ても彼の勝利は明らかだった。

勝利の言葉と、お辞儀をひとつ
まだ、どきどきが、止まらない!

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