「……何が言いたい?」
ナマエは額に包帯を巻いた男、クロロに摩訶不思議で、意味のわからない言葉を言い放った。当然、彼は彼女が何を言いたかったのか、その数字の意図を読み取ることはできず、胸に小さなしこりができた。
「いや、私からすれば六なんだけどね」
「……だから何が言いたいんだ、と言っている」
「やだな、そんな怖い顔しないでくれよ」
くつくつと笑うナマエのせいで、その小さなしこりは少しずつ大きくなる。そしてそれに比例するかのように、彼女より楽しそうに笑った。その笑顔はまるでナマエが何もかもをわかっている上で笑うピエロのように感じる。しかしクロロは、ピエロでもう一人、簡単に連想できてしまった人物のせいで不快な気持ちになり、すぐにその認識を拭った。
「怖い顔をしたつもりはないんだが、焦らされたら苛つくこともあるだろ?」
「そうだねえ。だけど言ったら君はきっと…いや、何でもない」
「ほう、それは悪口か何かか?」
「それは言えないなあ」
口にチャック、と可愛く言いながら口元を押さえて笑うナマエ。言えないのならなぜ言葉に出したと思いながら溜息をこぼすクロロ。ナマエは手元のコーヒーが冷えてしまわぬように思い出したかのように口元へ運んだ。
「口にチャックをしたんなら飲めないんじゃないのか。」
「ねえ、知ってる?それって屁理屈って言うんだよ。」
きっと胸にあった小さな苛立ちのしこりが膨れたんだろう。クロロも無言でコーヒーを口に含んだ。あれでいて、あのコーヒーには大量の砂糖やミルクが入っているんだから、人は見かけによらないものだ。と、ナマエはカップで口元が見えないのをいいことに小さく笑った。
「クロロくんにイイコトを教えてあげよう」
「なんだ、心優しいお前はヒントの一つでもくれてやる気になったのか」
まるでナマエが教えないとわかっているかのように皮肉めいた言い方をするクロロに、彼女は、やっぱり君は私からすれば六だと再確認した。そして口を開く。
「君は一にはなりえない」
また少し、しこりの膨らむ音がした。
A handsome man
何枚目であろうが君が君であることに変わりはないけれど。
二枚目:色男 五枚目:敵役 七枚目:巨悪 八枚目:元締め
六枚目:憎めない敵役 一枚目:主人公