狩人短編 | ナノ

私はまるで風船のように頬を膨らまし、あからさまに怒っている表現をしていた。そこれもこれもシャルのせいだというのに、当の本人は未だにパソコンに噛り付いている。


「シャル」
「んー」
「もうお昼だよ」
「んー」
「私なにか食べに行こうかと思うんだけどシャルも一緒に行く?」
「んー」


シャルは先程からずっとこの調子で、たぶん、いや、きっと私の話してる内容なんて頭の隅にさえも入ってないだろう。私は年末忙しかったせいで久しぶりにとれた休日なのに。そう思うと怒らずにはいられなかった。私はシャルに会いたくて仕方なかったが、シャルはそうでもなかったのかもしれない。カチカチとなるキーボード音がより一層私を腹立たしく感じさせる。お前の恋人はパソコンか!!と、言いたくなった言葉を飲み込んだ。

顔も頭もいいシャルの恋人になれたときは、本当に私なんかでいいんだろうかと思った。シャルが仕事仲間だと紹介してくれた女性は美人だったり可愛かったりとあきらかに私とレベルが違う。それにシャルに言い寄ってくる子もかなりいる。きっと私なんて飲み物を買ったらついでについてきたストラップみたいなものだろう。


「ナマエ、ここさー…ってなんでそんな顔してんの」


そんな顔ってどんな顔だ。強いて言うならシャルのせいで私は怒ってるよ。きょとん、と可愛い顔をして私を見つめるシャル。私の話は全然聞いてくれなかったくせに、と思ったがその顔が愛らしくてそんなことなど消えてしまいそうになる。ほんと、ずるい。だけどここで許してしまったら負けだ、と私は私なりに少しだけ強気になった。


「……別に」
「別にって…どう見ても怒ってるじゃん」


なんで怒ってるの?と訊いてくるシャルは自分が原因だとは思っていないんだろうか。再び私が、別にと素っ気ない返事を返せば、どこか困ったような顔をされた。その顔を見てると私が悪いわけでもないのに少し申し訳ない気持ちになってしまい、目を逸らしてしまう。それからすぐに、ちゅ、と頬に軽く温かい感触を感じる。


「怒ってたら可愛い顔が台無しだよ?」


そういって意地悪な笑みを向けてくるシャルに勝てるはずもなく、簡単に白旗を上げて私のほうがごめんと謝ってしまった。

抜けた空気の行方は
「さてと、お昼ご飯どこに食べに行く?」
「え、ちゃんと聞こえてたの?」
「ん?なんのこと?」
「………なんでもないよ」

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テーマ「人外ファンタジー」
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