狩人短編 | ナノ

元ネタ:イルミ逆トリ



最悪な目覚め方だった。


「った!?」


鼻の上を何かが掠ったような気がして目が覚めると目の前に大きな針が刺さっていた。ああ!?私の枕に穴空いたじゃん!!と起き上がり枕を確認すると、今度は頬の横を掠めもう一本枕に刺さった。……うん、おかしいよね、これ。そろりそろりと振り返ってみれば、無表情で黒髪の男が立っていた。ふ、不法侵入……!?


「どうやって俺を誘拐したわけ?」


……あ?なんだこの新手の詐欺。こっちは今制作と就活に追われてんだぞ。誘拐なんてするわけねぇだろ!勝手に侵入して誘拐されただの喚く暇があったらターゲットの情報くらい調べとけよ!!


「これ、お前の身分証とかそんなんだよね?」


布団の上に投げられたのはバッグや財布にいれてたはずの運転免許証とか保険証とか学生証とか。……調べろとか言いましたけどこんな物理的じゃなくてだな。なんかもうこれ脅しに近くなりそうなんだけど、あれ、立場的に有利なのって私で合ってるよな?私自身の常識という概念が不安になりつつある。だってこの男まるで自分が正しいみたいな顔で堂々としすぎなんだもん…!能面みたいに全く表情筋動かないしほんと怖いんだけどなんなの。


「これ、ジャポン語の類いだよね?所々ジャポン語に似てるけどだいぶ違う」


ジャポン、語?あ、ああ、この人もしかして外国の方か。うっかり迷子になって道訪ねようとしてうっかりうちに入っちゃったーみたいな……うん、犯罪だってわかるよね普通。この男「俺パドキアにいたはずなんだけど」とか言ってるどパドキアってどこ。地理壊滅的な私だけどそれが明らかにカタカナ表記だってのはわかったよ。でもね、迷子の範囲が広すぎるんじゃないかなぁ…って、ははは。うん、警察に電話しよ。


「妙な真似したら殺すよ?」


うわー物騒だよー!携帯取ろうとしただけなのに!!ていうかこの国は銃刀法違反ってのがあってだな?そういうもの持ってたらー…あー……針ですね。針は皆等しく持ってますねー…銃刀法違反じゃないじゃん!?なんだこの人頭いいなチクショウ。


「お前いい加減なんか喋ったら?」
「っはい!」


ぎゅっと抱き締めていたはずの枕はいとも簡単に取り上げられ挙句の果てにはどうでもいいとばかりに放り投げられてしまった。こんなの絶対おかしいよ……。再び私がだんまりモードに戻ろうとしていたのが男にバレたのか、まるで脅しの如く無言で針を目の前に突きつけられた。いや、如くっていうか完全に脅しだこれ。


「あー、ここはジャポンではなくジャパン、日本っていう国です。因みに私はパドキアなんて国は知らないので、えーっと、誘拐?するにもどうしようもないというか、たしかにここは私の家であなたは気付いたらここにいたってことなのかもしれませんが、私も状況把握してないというか、その、起きたらあなたがいたのでこっちからすればあなたが…あー……不法侵入…です」


危険な目に遭いたくないので無難に話を合わせつつ、自分の話を盛り込んだがなんかもう必死すぎて何を話せばいいのかわからずかなりぐだぐだになってしまった。どうすればいいんですか私、とか聞くのが手っ取り早いけど金巻き上げられて殺されたくないので言えない。私まだ死にたくない。私が冷や汗を滝のように流しているのをじろじろと無表情で見つめてくるこの目怖いよ…目に光がないよ…。あれ、おかしいな…目からも汗が出てきやがったぜ……。


「日本なんて国、俺知らない」


私だってパドキアなんて国知らないよ!!!でも日本の場合結構有名だよね?ていうかあんたその日本にいるわけだから知らないわけないでしょ。日本だよ日本、ジャパニーズSAMURAIジャパニーズNINJAだよ?ドゥユーノウジャパン?なんて実際本人には聞けないので頭の中で聞きながら男の表情を見る。相変わらず眉一つ動かない徹底ぶりだ。怖いとは思いつつ試しに「お寿司とか舞妓さんとか、あ、ほら、アニメとか!?」と言ってドラえもんの真似をしたら再び針が飛んできたのでやっぱり余計なことは言わないことにした。


「……ゾルディック」
「え?」
「イルミ・ゾルディック、俺の名前。ゾルディックくらい聞いたことあるでしょ」


どうやらこの男、自分の名が有名だと思っているらしい。そんな有名人いねぇよ、とか内心で突っ込んだがゾルディックという名前は確かに私も知っていた。

ゾルディックと言えばHUNTER×HUNTERとかいう漫画に出てくる暗殺一家の名前である。私は専らは少女漫画専門だから読んではいないが友人がかなりのファンだったせいで主要キャラやらその身辺、あと念能力のことなどなんとなーく覚えていた。イルミ・ゾルディックは友人が好きなアダルト組?の一人だ。だから散々容姿や性格、能力など色々なことを聞いてもないのに話された記憶がある。だからこそ、何言ってんだこいつと言わせてもらおう。ここはNOT二次元YES三次元!そんな夢みたいな魔法みたいな話は漫画の中だけ!念能力なんてものはありません!そして極めつけは武器を似せようが顔を似せようがイルミは 長 髪 だ!ていうかアダルト組って言われるくらいなんだからアダルトなんだろ。どっからどう見ても十代じゃんか!一昨日来やがれ!!


「…もしかして知らないの?」
「ソ、ソウデスネ」


知らないふりをすれば実は日本バリバリ大好きー!ハンター大好きー!イエアー!みたいなこの外国人がイルミになりきるのやめてくれるんじゃないか、という可能性を考えてみた。でも私の考えとは裏腹に私がゾルディック知らないってことを伝えたらこいつの常識大丈夫?みたいな顔されたからとても心外です。どこまでもなりきる気なのかこの男。


「まあいいや、お前無力そうだし」


何がまあいいの。わかんない…この人全然わかんない…。色々ありすぎて頭が痛くなりそうだとこめかみをグリグリしていると男は突然部屋の窓を開けたため、今度は何をするんだと見た瞬間、男が視界からいなくなった。


「……は?」


突拍子もない行動に目が点になる。今、飛び降りた、よね?サァと顔が青くなるのを初めて経験した。だってここ三階だよ…!?布団から飛び起き窓から顔を出す。真っ先に真下の道路を見たが死体のようなものは何一つ見えなかった。ホッと息を吐いた途端、安心して膝がガクリと抜けた。夢か、夢だったのか。あんな男はいなかった。そうだ、そうに決まってる。床に落ちてしまっている枕を拾い、二本刺さっている針を抜いて机の上に置く。大丈夫、これは夢だから寝て起きたら開いた穴もなくなって私は安心して学校に行くんだ。よし、あと一時間だけおやすみなさい。入り直した布団は一度出たせいか冷たかった。

*

起きても枕の穴は開いたままで、針は机の上にまだあった。布団に投げられた運転免許証とかその他もろもろもバッグの中に入っておらず、私の部屋の中にあった。だけど私そんな細かいこと気にしないよ。大丈夫だいじょーぶ。頭痛薬を飲んで学校に向かえば友人が今日も元気に話しかけてきてくれた。うん、今日はHUNTER×HUNTERの話はやめてほしいかも。そうこうして今日も今日とて頑張ったと学校から帰ってきたらあの男が我が家で寛いでいたのだから、もう、笑う以外にどうしろと。

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