100000 | ナノ


湯船に浸ったまま長考し、部屋に戻ったあとベッドに入った記憶がないため、おそらく逆上せて倒れたんだろう。そう、この記憶が正しければ倒れた場所は自室のはずなのだ。それなのに目が覚めたとき、私は冷たいコンクリートの上に寝ていた。なんて笑えない冗談なんだろう。ここまで意識も思考もはっきりしているのだから夢ではない……と思いたくなかった。夢であってほしかった。


「――――」


嫌な汗を出しながら考えていると、後ろから声を掛けられた。自分以外の誰かが何故こんな廃墟にいるのか。あまりいい予感はしないが、何も知らないというのはやはり怖い。どんな情報でもいいから、今はこの状況を知りたかった。


「……子ども?」


意を決して振り向いた先には、よれた服を着た汚れた少年。彼もまた、私と同じように何かに巻き込まれた一人なのだろうか。そんなことを考えていると、再び少年が話し掛けてくる。が、少年が何を言っているのか私には理解できなかった。内容が難しいとか、受け入れたくない事実を話されてるとか、そういうわけではない。少年が話す言語を、理解できなかった。


「……――、――――?」
「何を言ってるのか、わからないよ」


私が困惑した表情で日本語を話すと、少年は自分の言葉が伝わってないことを理解したのか、険しそうな顔をして、それからすぐ心底面倒臭そうな顔に切り替えると溜め息を一つ吐き出した。うわ、感じ悪い。そう思ったのも束の間、少年は成人男性と言われても頷けるような握力で私の腕を掴み、引っ張るように建物の外へ連れていく。


「ねぇ、待って!腕が痛いって、」
「――」


ピタリと止まり、私の言葉を遮った理解のできない言葉は『うるさい』や『黙れ』というよりは『見ろ』と言われてるように感じて、私は感じた通りの行動をした。先程まで暗い場所だったせいか、目が少しチカチカと光を拒む。


「なに、これ」


ようやく光に慣れた目で見た建物の外は、人が住めるような環境ではなかった。まるでゴミ箱の中に落とされたような場所だった。見渡す限りゴミで溢れていて、いくつもの山が形成されている。鼻を突くような臭いの原因はこれだったのかと理解するよりも、私は無意識に体の力が抜け、ペタリとその場に座り込んだ。なんのために私はここにいるのか。なんのために放置されているのか。ここは一体どこなのか。答えてくれる人物は誰一人としていない。いや、いないというのは嘘だ。


「ねぇ、きみはなぜ自分がここにいるのか知ってる?」
「……――――?」


少年が何か言葉を発するが、私には理解できない。少年が話す言葉はやはり英語でも、日本語でもない、理解できない言葉。それがどうしようもなくもどかしくて、私は少年のよれたシャツを掴んだ。


「ここがどこなのか知ってるなら教えてよ!私は自分の家に帰りたいのに!!」


きっと少年は服が伸びるとか、うるさいとか、そんなこと思っていないだろう。泣きながら喚き散らす私のことをただ真っ直ぐ見つめる黒く大きな瞳は感情がないように見えた。少年のその瞳に見られていると思うと、なぜか今の自分の姿が恥ずかしく、みっともなく思える。そんなことを考えていると涙は止まっていて、私は掴んでいた少年の服を放した。「―――」。少年は人差し指を自身に向けて口を開いた。先ほどまでとは違う、短い言葉だ。その動作から、なんとなくだが少年は自分の名前を私に教えようとしていることがわかる。私が理解できないのを知っているからか、もう一度少年は同じ単語を口にした。


「クロロ」
「く?」
「クロロ」
「く、ろ、ろ?」


頷いた少年はクロロというらしい。私は覚えるためにボソボソとその名前を反復する。どこかで聞いたことがある名前のようにも思えたが、それがどこなのか、私には思い出すことができなかった。

真ん丸のきみの瞳がこわい

リクエスト内容:子旅団がいる流星街にトリップしてクロロと出会う話
あえて言葉が通じない設定で書いてみました。ハンター語って文字で見る限りじゃなんか発音とか違いそうですしね!ハンゾーとだったら会話として成立しそう(ジャポン語)

▼お返事
お祝いの言葉ありがとうございます!いつも足を運んでくださっていただけてるようで本当に嬉しいです……!言葉が通じないという設定にしたのでクロロとあまり絡めてないような気もしますが、気に入っていただければ幸いです。

咲様、リクエストありがとうございました!

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