100000 | ナノ



「ウボォーとノブナガのやつ、派手にやってんな」
「ああ。だがおかげで注意がそっちにいくから仕事がしやすい」
「仕事がしやすいって団長もナマエもなんもしてないでしょ」


ナマエ、クロロは先程から目の前でせっせと機械仕掛けの大きな金庫を弄るシャルナークのことなど気にせずどうでもいい世間話ばかりに花を咲かせていた。最初こそは黙って作業に集中していたシャルナークだったが、頭上でされる会話にとうとう棘を含んだ言葉を吐き出した。「一応やってんだけどなぁ」。そう言いながら明後日の方向を見るナマエは滅多に降りてこない警備員を蹴散らすだけ。しかもウボォーギンとノブナガがどちらが多く殺せるかと勝負をしているため残りカスを掃除するようなものである。どう考えてもしっかり仕事をしてるとは言えないかった。明後日の方向を見て言うのも頷ける。だが、クロロに比べればナマエはまだマシなほうだった。なんせクロロはナマエが警備員を蹴散らすのを眺めているだけで自分は何もやらないからだ。というか、降りてきた警備員を蹴散らすくらいなら俺にだってできるし。シャルナークの目はそう語っていた。


「ナマエは、うん、まだやってるほうだと思うけどさ」
「だろ?」
「いや、堂々と言えるほどやっちゃいないよ?」


すぐさま訂正すれば、ナマエは誤魔化すかのようにアハハと声を出して笑った。それを聞いたシャルナークはモヤッとした違和感で思わず作業の手を止めてしまう。


「……ナマエってこないだの誕生日を境にすごい変わったよね」
「んー、まぁ、色々あって」


急に話題を変えたせいなのか、それとも言いたくないだけなのか、ナマエは曖昧な返事した。何が色々あったのか、その説明はせずにナマエは再び誤魔化すように笑顔をシャルナークに向ける。向けられたシャルナークはというと、その色々の部分の説明をナマエではなくクロロに向けて無言の笑顔で催促した。そしてクロロはというと、それがオレもわからないんだと言った風にただ首を横に振るだけだった。


「そういうシャルだって、俺に対する態度、変わったんじゃね?」
「えっ、うん、ま、まぁ!色々あって!」


それは明らかに自分のことから話を逸らすためだったのだろうが、話の流れとしては違和感もなく、シャルナークが動揺するには十分な返しだった。何せ、以前のシャルナークはナマエのことを苦手だと感じていたからである。当然、そのことを知らないナマエはあの日以降でシャルナークとの間に何かあったかと首を傾げ考える。薄々気付いていたクロロは「くっ」と吹き出しそうな笑いを、口元を押さえることで我慢していた。後でナマエに聞かれても絶対に言うなとクロロに念を押しておかねば。シャルナークが内心でそう思っていると、カチリと金庫の鍵が開く音がする。


「うわ、いかにもって感じ」


そう声を漏らしたのはナマエか、シャルナークか。
開いた金庫の中からは開く前に微かに漏れていたオーラと比べ物にならない量のオーラが溢れていた。クロロは押し退けるように二人の間へと割って入り、もやもやしたとオーラを発する箱に手を伸ばした。


「おい、クロロ、」
「これくらい大丈夫だ」


ナマエがクロロを止めようとするが、クロロはナマエの言葉を聞く前に箱を掴んだ。
クロロの片手で足りる大きさの箱は、金装飾がギラギラと反射し、オーラを抜きにしても中に大事なものが納められていることがわかる。クロロはシャルナークが時間をかけて開けた金庫とは比べ物にならないほど簡単そうな、至って普通の鍵穴に、同じく金庫に入っていた鍵を合わせた。「……石?」。ナマエは眉間に皺を寄せながら大事そうに仕舞われていたソレを見つめる。中に入っていたのはナマエの言う通り、石だった。ただ、オーラを纏っている時点で普通の石ではないことがわかるし、普通の石というには蒼く、宝石に近い。


「手にとってみるか?」
「団長、それわかってて言ってるならタチが悪いよ」
「なに、単なる噂の一つに過ぎない」
「噂?」
「あ、ナマエは知らないんだっけ」
「ああ」


ナマエが頷くとシャルナークは目の前の石について軽く説明を始めた。この石を触った者は多くの富を得ることができると言われているが、その代償に不本意な、無惨な死を迎えるというもの。ナマエはそれを聞いたとき、すぐ近くで血を流し死んでいる石の持ち主を見た。無惨な死、か……。だけど、彼は一瞬で殺されたのだから、幸せだったに違いない。そんなことを考えながら昔似たようなものが存在する世界にいたことを思い出した。

「賢者の石に似てるな」。ぽつりと呟かれたナマエの独り言を拾ったシャルナークは「賢者の石?」と反復し、これに対する返事はナマエではなくクロロが説明した。


「物語に書かれてある石のことだ。卑金属を貴金属に変えたり、不老不死になれたりすると言われている」
「不老不死ねぇ……そこまでくると念能力って言うには難しくない?」
「ああ、存在しないほうが納得できる」


そんな会話をしている間に、気づけば上層部の騒音は鳴りやんでいて、その代わりにウボォーギンの豪快な笑い声が響いていた。あの二人が殺した数を覚えてるとは思えないが笑い声からどうやら勝負はウボォーギンの勝ちらしい。クロロは箱に再び鍵を掛けると、立ち上がり階段へと向かった。それが撤退の合図だというのは言われずとも理解しているため、ナマエとシャルナークはその後に続く。ナマエがクロロの横に並んだとき、不意にクロロから声が掛かった。


「もしも不老不死になれたらどうする?」
「……現実味のないことを聞いてくるなんてクロロらしくないな」
「だからもしも、と言っただろう?こういう話もたまには面白いと思ってな」


クロロはナマエの意見を聞くのが好きだった。あの日、21歳の誕生日以降、どんなに小さなことでもなにかある度にナマエへ意見を求めていた。それはクロロにとってナマエという掴めそうで掴めない人物を知るためのひとつの手段であったし、今までなら『どうでもいい』と言うだけだったナマエがそれ以外の言葉、自分の意見を言うのがクロロからすればとても楽しかったからだ。ナマエは考える素振りをして、呟くように言った。


「死に続けるよりはいいんじゃないか?」


“4”の意味を嫌うわけを聞いたあのときもそうだった。ナマエは気付いていないのかもしれないが、あのときから変わらずナマエはなぜか“死”を第一に考えているかのように話す。もちろん、クロロはそれに気付いていた。だからこそ、質問の答えとしては少しずれているナマエの返事に対し、クロロは「そうか」と口元に笑みを浮かべて頷くのだ。

しらないのはどっち

リクエスト内容:わるいゆめをみたの続編
本当はこのあとウボォーギンがうっかり指輪を触っちゃったーとかいう流れにしようとしたんですが、だらだらなりそうなのでやめました。指輪を触る(伏線)→それから数年は死ぬこともないしただのデタラメだったか〜とみんな忘れる→原作で死ぬみたいな……。でも結局触る描写はしなかったので主人公がもしかしたらウボォーギンを助けるかもしれませんね(なにも考えてないけど)。ちなみにクロロはなぜ主人公が死を第一に考えながら話すのか、それはいまだに知らないままです。

匿名様、リクエストありがとうございました!

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