100000 | ナノ


「ステーキ定食、弱火でじっくり」


思えばあのときから俺の日常は崩れていっていたのかもしれない。





「フェイタン何やってんのこんなとこで」


9月1日ヨークシンシティで、そうゴン達と約束して、俺は約束の日の三日前にヨークシンへ着いていた。早く着いたからといって何か予定があったわけでもなく、単に余裕ある行動をとっていたら8月29日だったわけだ。計画性なんてもん俺にはないからな。
ヨークシンをあまり知らない俺はまだ時間があるからと観光がてら適当に街をふらついていた。すると突然肩を叩かれ、まるで昔からの知り合いかのように気安く声を掛けられた。声を掛けてきたのは金髪碧眼のイケメン君である。その隣には黒髪黒目のこれまたイケメン君。なんだ、新手の詐欺か何かか。たしかにこんなイケメンから声を掛けられたら引っ掛かるわ。イケメン滅べよ。


「……人違いだと思うけど」
「何それギャグ?」
「いや、ほんとに」
「おい、フェイタン。変装するにしてもそれはないぞ」


なんだこいつら器用に交互で話しやがって。これが詐欺の手口かよ!?括弧開きただしイケメンに限る括弧閉じってやつだろ!!
にしても、フェイタンって言ったか?声を掛けられたときもそう呼ばれた気がする。前に一度、ここじゃないどこかで聞いたことがある名前のような気がするが、いまいち思い出せない。というかこのイケメン君達なんなの?急に声掛けてきたかと思ったら俺のファッションセンスにケチをつけてくるとか礼儀がないにもほどがあるだろ。ま、ファッションセンスあるとか言えるほどお洒落なもん着てないんだけどね!全身真っ黒だからね!


「いや、変装してるつもりとかないというか、俺はアンタらが言てるフェイタンさん?じゃないから」
「えっ、今のわざと?わざとなの?」
「は?」
「小さい“つ”が言えないとこが完全にフェイタンだな」


堪えていた笑いを黒髪黒目のイケメン君の言葉で噴出しそうになっている金髪碧眼のイケメン君。え、なんなの?バカにしてんの?殴っていい?しょうがねぇだろ俺は小さい“つ”を口に出して言えねぇんだからよ!!!


「アンタらまじでな――」
「そうそう、ヒソカのやつ今年のハンター試験受かったって知ってる?」
「……ヒソカ?」
「うん、あのヒソカ」


知ってるも何も、俺もそのハンター試験で一緒に合格したんだから知ってて当たり前のことだ。それよりも俺はこのイケメン君の言葉で大事なことを思い出した。そうだ、俺のことを前にフェイタンって言ったのはヒソカだ。ヒソカはヤバイ奴とトンパから聞いていたから一度話しかけられて以来避けていたのもあってヒソカの存在を完全に失念していた。ん?てことはヒソカとこのイケメン君達は知り合いで、しかもフェイタンとも繋がりがあるってことか?……キルアの兄ちゃんもだったけど、ヒソカと知り合いって時点でこのイケメン君達って相当ヤバイ奴らなんじゃないのか?…………これってやっぱ話を合わせて逃げたほうがいいよな?今ならまだ間に合うよな?
血の気が段々引いていくのを感じながらそんなことを考えている間、イケメン君は「あのヒソカがハンターになっちゃうとかほんと世も末だよね。そもそもハンター試験受けに行ったのも殺人がしやすくなるためとかそんなんでしょ」と話を続けていた。


「……もう行ていいか」
「あ、フェイタンなんか予定あったの?」
「まぁ、そんなところだな」
「そっか。引き止めて悪かったね。じゃあまた8月31日に」
「忘れるなよ」
「……もちろん」


漸く離れられると思ったら、いつの間にか黙っていた黒髪黒目イケメン君から念を押された。8月31日なんかあんの!?と思ったが俺は関係ないのでとりあえずわかった的な返事だけをしてそくささとその場から離れる。なんだか最後まで見つめられているような気が背後からしたが、きっと気のせいだ。そうであってください。


*


俺はさ、常日頃……と言っても出会って日浅いけど、とにかくそれくらいたくさんゴンとキルアに『無茶はするなよ』って言ってたわけよ。なんていうか、若さ故に突っ走っちゃうとことかあるからね。それなのにさぁ、ほんとさぁ、どうして俺がこうなっちゃったのかな。


「あ、こいつだよ!オレとクロロがフェイタンにめっちゃ似てたって言ってた奴!」
「言われなくても見ればわかるわよ」
「にしてもほんと、フェイタンに似てるね」
「お前ワタシの真似して何企んでるね」


地面に叩きつけられ、腕を背中に回されたまま押さえつけられている俺の腕はギリギリと嫌な音を立てている。頭上からはいくつもの影と好奇の目が落ちていて、そのうちの一つ――俺の上に乗っかって押さえつけている張本人――は機嫌が悪そうだった。機嫌が悪そうな人は俺と違い一人称がワタシだし、すっごい目つき悪いし(俺も人に言えたそれではないが)、威圧感が尋常じゃない。え、イケメン君達こんな人と俺を間違えたの?って言いたくなるようだが、顔と声と、悲しいことに身長だけは全くといっていいほど瓜二つだった。ああ、あと服装が全身真っ黒ってところも。


「いや、何も企んでなんかないし、元からこの顔だし、いっ!!」
「ホントのこと言うね」
「あっはっは!なんか痛がってるフェイタン見てるみたいで面白いね!フェイタンと違って表情めっちゃ豊かだし!」
「……シャル、殺されたいかお前」
「おっと、怖い怖い」


俺が痛がっているのを楽しむ金髪碧眼のイケメン君のせいで八つ当たりのように俺に対する力が強くなる。イケメン君まじで滅べよ!?イラッとしたせいで俺のオーラが揺れたのを感じたのか、またさらに力が強まり泣きたくなった。そのまま折らないでね、お願いだから。無言で俯いた俺に「ちょっといいかしら?」と綺麗な女性の声が二人の会話に入り、今度はなんだと顔を上げてみればナイスバディの、胸元がいやらしすぎるお姉さんが俺の前に膝をついていた。お姉さんは俺の肩にやさしく手を置き、にこりと微笑む。


「その顔や声は念の一種か何かかしら?」


助けてくれるわけじゃなかったのかよ!その微笑みが俺には一瞬後光が差しているように見えたのだが、どうやら見えただけだったらしい。質問を質問で返せばきっと俺の腕はそろそろ折れてしまう気がするので「違う」とだけ答えたのだが、お姉さんは俺の答えを聞く前に立ち上がって背を向けてしまった。


「念じゃないわ。生まれつきこうみたいよ」
「デタラメを言うな」
「あら、私を信じられないの?」
「まぁまぁフェイタン落ち着いてよ」


そっくりさんを宥めに入ったイケメン君ナイス!と思ってたら「ほら、実は双子とか?」とまさかのデットボール入りました。ありがとうございます。こいつさっきから地雷しか踏んでねぇな!?兄弟なんて俺にはいないっての!!この双子疑惑からさらにイケメンくんが、わざとだろ!?と言いたくなるような変な質問ばかりを投げてくるせいでお姉さんの謎の能力により俺のどうでもいいことから恥ずかしいことまで赤裸々にばらされることになった。しかもこの後、何故かゴンとキルアがこいつらの仲間みたいな奴に捕まってくるし、俺とフェイタンを見たときにややこしい誤解を生むしで泣きたくなったのは後世思い出したくない思い出です。

勘違いもほどほどに

リクエスト内容:双子疑惑があるフィイタンとそっくりさん(外見は似ているが性格が対照的→ゴンキルの仲間)
書きたいところを書いていたらだいぶ長くなってしまいました!この後クラピカとの交渉でうまいように使われそうだなこの主人公……って思ってるんですがゴンとキルアが主人公と瓜二つのやつ旅団にいるから気をつけてとか言いそうですね。主人公から不憫属性のにおいしかしないです。哀れ。

匿名様、リクエストありがとうございました!

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