恋は盲目 | ナノ


フェイタンの場合(元ネタ)

フェイタンは人よりも少しばかり気が短い。ハンター語は慣れていないし独特な話し方をするから違う国の人なんだろう。だから気が短いのもお国柄だと勝手に私の中で決め付けた。だけどそんな気が短いフェイタンも私は好きだ。私のことをよく気に掛けてくれるし、ああ見えて彼はすごく優しい。ただちょっと目付きが悪くて、人見知りなだけなんだ。そう、思ってた。

現実は少し、違ったようだ。


「ナマエ、そんなとこいたら風邪引くよ」
「……ううん、大丈夫」
「こちにくるね」
「大丈夫、フェイタン、私は、大丈夫」


震えそうな声を抑えながら一言一言、しっかりとフェイタンに伝える。彼は優しい。今みたいに私が風邪を引かないようにと気に掛けてくれる。そんな彼の優しさに惹かれ、気付けば恋人というものになっていたのだから、私はフェイタンが好きなのだ。好きなはずなのだ。

噎せかえるような血の臭い。いつからだろう、フェイタンからこんな臭いがし出したの。私の知ってるフェイタンはこんな臭いつけていなかった気がするのに。





彼が愉しそうに拷問する姿を、私はこの目で見た。笑うその顔は人の顔には見えなかった。初めてその姿を見たとき、怖くて恐くて、震えるより先に涙が出た。拷問され、生気が消え掛かっていた人物は、つい最近、今度久しぶりに一緒にご飯を食べようと連絡を取った友人だった。それが偶然か、そうじゃないのかは、フェイタンしか知らない。彼は私の顔を見た途端、名前を呼んで助けを乞い、生を掴もうとした。それも、一瞬だったけど。


『ワタシのナマエに気安く話し掛けるな』


気付けば彼の首と胴体は綺麗に離れていた。フェイタンってば、いつ、そんな手品を覚えたの?なんて、馬鹿みたいに現実から離れようとしても、その胴体から吹き出る真っ赤な液体が視界を染め、私を現実にとどまらせた。真っ赤な画面に現れるのは、林檎でも、苺でも、トマトでも、況してや友人でもない、瞳と唇に弧を描き、まるで道化師のような顔をした恋人の、フェイタンだった。彼の血を浴びたフェイタン。噎せかえるような血の臭いが離れなくなったのは、その日からだったかもしれない。





フェイタンは優しい。拷問をするような人だったとしても、彼は私にだけ優しいのだから、私が彼のことを優しいと言っても間違いではない。フェイタンは優しい。私は彼が好き。優しいから、好き。自分に言い聞かせては確認させる。そうでもしないと逃げ道のない架空の道に私は逃げ出したくなるから。

私が側へと寄らなかったからか、フェイタンから寄ってきた。震える私の手を握るその手は温かい。この手が人を殺すのだ。そう思うと安心するような温度のはずなのにひどく恐ろしかった。たまにフェイタンの手が真っ赤に染まっているような幻覚をよく見る。それが本当に幻覚なのかわからないけど。


「ナマエ、寒いか?」
「寒くないの、ただちょっと、疲れたみたい」
「ムリはよくない。横になるといいよ」
「……ありがとう」


ひどく、泣きそうだ。嗚咽が出そうになる。優しい呪文はいつだって私の心を抉っていった。

彼もいつか私を殺すのだろうか。きっとそのときは私が裏切ったときに違いない。その温かい手を冷たくさせて、拷問のようにネチネチと長引かせないで簡単に、寂しくなるようなほど呆気なく、私を殺すんだろう。


「ゆくり休め」
「うん、…うん、ありがとう。私ね、フェイタンのこと、大好きよ。とっても、とっても、     。」
「……ワタシもよ」


だから、その優しさが消えてしまわないように、私も呪文をかけるの。

アイシテルって言わなきゃ殺す

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