一周年 | ナノ


06

ナマエは珍しく朝から上機嫌だった。何かあったのかと覗いてみれば先ほど届いたであろう今日の新聞を手にしている。内容をパッと見てみるが特にこれといって良いニュースもないしナマエが喜びそうなものもない。じゃあ、なぜ?その理由は新聞ではなく、新聞に挟まっていた懸賞金の書かれている紙にあるようだ。


「3000万ベリー?こんなやつ前までいたか?」


捕まえて海軍へ引き渡すために懸賞金は小まめに見ていたほうだが、この麦わら帽子を被った男を見るのは初めてだった。ここまで堂々としていて爽やかな笑顔の手配書はなかなか見ないため、一度見たら忘れないだろう。それほど印象に強い。


「出てきたばっかの海賊だもん。そりゃ見るのは初めてだよ」
「……そいつがどうかしたのか?」
「これからの私達に関係してくる海賊だよ」


その言葉でナマエの言いたいことがわかった。つまり、この男はナマエが以前言っていた“物語の主人公”というわけだ。こんな気の抜けた少年とも青年とも見える男が本当にそうなのかと疑いたくなるが、楽しそうなナマエの顔が嘘かどうかを全て物語っている。「あ、カイト」。事前に教えてもらった情報を思い返しながら今後のことを考えようとしていたところでナマエから声が掛かる。その声の雰囲気から何か思い出したことでもあったのかと視線を懸賞金からナマエに移すとナマエの手には電伝虫が収まっていた。


「ルフィ少年に懸賞金がついたってことは、おそらく数ヶ月後か、数週間後にはアレが始まるってことだから」


アレ、というのは調査の任務を出された時にナマエが教えてくれた未来のことだろう。ナマエが言っていたことが本当に現実で起こるのか、というのは起こってみなければわからないがオレは心の中で少しだけ期待していた。

ナマエはミス・オールサンデーに連絡を取るとミス・ウェンズデーがアラバスタのネフェタル・ビビ王女、Mr.8がアラバスタ王国護衛隊隊長のイガラムという男であることを伝える。どうするかと決断を委ねたところ、少しの間があってから今はまだ様子を見て、何かあるようなら連絡を寄越すようにと再び任務を言い渡された。それがMr.0の判断なのかミス・オールサンデーの判断なのかはわからないが2人という少ない人数で今の計画をどうにかできるとは思わなかったんだろう。ナマエは「脅威になるようでしたら、すぐにご連絡入れますね」と見えもしない相手――電伝虫は表情どころか姿形まで似せようとするとこがあるが――ににっこりと笑顔を作って返事をしていた。


「どうするつもりだ?」
「鯨がいる岬、わかる?」
「え?ああ」
「そこで見張ってルフィ少年が着いたのを確認したらミス・オールサンデーに連絡するよ。たぶん時間的に丁度応援で誰かがこっちへ着く頃に事が起こる」
「……連絡ってのは、Mr.8とミス・ウェンズデーの2人が海賊達に助けを求めた、とでも言うつもりか?」
「さすがカイト、勘がいいね。その通りだよ」


――実際、そうなるしさ。
笑ったナマエはやはり楽しそうだった。


*


「ウェンズデーちゃん」


一切気配がしなかったのに後ろから声が掛かり心臓と肩がドキリと跳ねた。


「……何かしら、ミス・チューズデー」


相変わらず彼女はにこにことしていて何を考えているのかわからない。もちろん、無表情のMr.10は表情を読むことさえできないので論外だ。そもそもこの場になぜ彼女達がいる?上から何も伝達はきていないから彼女達の独断だろうか。または――私達の正体がバレて殺しにきたのか。バレないようにゆっくりと腰に装着している武器に手を伸ばす。大丈夫、私達のほうが立場は上だ。勝機はある。たらり、冷や汗のようなものが背中を伝った。


「酒盛りしようよ!」
「…………え?」


想定していた内容とはかけ離れた台詞に思わず意表を突かれた顔と、声を出してしまう。突拍子のないことを言い出した当の本人は私の態度にどうしたのかと少しきょとんとしていた。


「Mr.10とばっかり飲んでるからたまにはほかの人も誘って飲もうかなって思ったんだけど気持ちよく飲めそうなのってウェンズデーちゃんしか浮かばなくって」
「……どうして私なの?」


警戒しているのもあるが素直に疑問をぶつけるとミス・チューズデーは不思議そうな顔をして「駄目だった?」と問い返してきた。B.Wは仲間という言葉は似合わない。隙があれば上位の席を奪おうとして、仲間という言葉とは真反対の、敵という言葉のほうがしっくりとくる。酔いが回ったところを襲うつもりなのか、本当に彼女は私とお酒を飲むためだけにやってきたのか。もし後者であればなんというか、悪い意味で気が抜ける相手だ。

ミス・チューズデーはまるで私の考えをお見通しかのように「別に酔った相手を襲おうとかは考えてないよ」といつもの笑顔で言った。……私はその笑顔がどうも苦手らしい。

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