一周年 | ナノ


05

こちらに飛ばされたばかりのとき暑いと文句を言いながら歩いた砂漠を俺達はラクダに乗って涼しげに渡っていた。


「なんて書いてある?」
「んー、B.Wにいるスパイを調べろってさ」
「……スパイ?」
「うん」


スパイという単語に少しどきりとする。自分達がどこかのスパイというわけではないが、敵か味方かと聞かれればどっちつかず、むしろB.Wにいい印象を抱いていないほうが大きいため敵と言ったほうがしっくりくるからだ。だからこそ、何か勘付かれたのかと思った。いや、勘付かれたのならこんな指令上が届くわけがないし、そもそも何も企んじゃいないのだが。そんなことを考えているとスパイという単語に驚く様子を見せなかったナマエは俺の考えなんてお見通しだと言わんばかりに「私達のことじゃないから安心していいと思うよ」とからりと笑った。


「……お前何か知ってるだろ」
「まぁ、ね。でもいつどこでアンラッキーズが現れるかわからないからここでは言わないでおく。とりあえず落ち着いてから話すよ」


簡単には言えないことをナマエは一体どこまで知っているのか。詳しいことはわからないがここが漫画だと言ったのもナマエだ。きっとこの漫画を読んだことがあるんだろう。未来の出来事は教えてもらってないがこの世界のこと、アラバスタのこと、この世界の住民ならば知っていて当然の知識を教えてくれたのはナマエである。未来のことに関しては俺が特別興味を持って聞こうとしなかったからナマエも教えなくていいと思っているのかもしれない。

それにしても、スパイを調べるという任務を俺達にやらせるなんてMr.0は何を考えているのか。いくらフロンティアエージェントといえど、もう少し上の連中にさせたほうが信用できるだろうに。


「この任務を任されるってことは俺達が信用されてるって考えてもいいと思うか?」
「いや、ボスに限ってそれはないと思うよ。あの人信用とか絶対しないじゃん」
「じゃあなんで今回の仕事を任されたと思う」
「それに関しては私も理解できないんだよねぇ……試されてる、とか?」


さすがのナマエでもこれはわからないらしいが、試されてるというのは妙に説得力を含んでいた。しかしその後すぐに「それかボスは私達がスパイじゃないって確信してるから、私達に任せたとか?」と続けた考えは説得力の欠けるものだった。……そんな単純でいいのか?


「とにかく深くは考えないで仕事に精を出しましょー」


エイエイオー!と右拳を上に突き出しながら発したナマエの声があまりにもお気楽すぎて、ナマエにすればこれは重要なことではないのかと呆れてしまった。ま、過ごしていればそのうち答えがわかるはずだろ。


*


ナノハナに着くと一艇の船が用意されていた。今度からこれを自由に使えという上からの指示らしいが、二人という人数には余裕がある船にミリオンズは怪訝そうな表情を向ける。俺達二人は任務で海を渡るときは大体B.Wの船を拝借していて、それ以外は専らアラバスタを出なかったため船など一艇も持っていなかった。なのに突然上からポンッと船を渡されれば何か裏で取引でもしたのかと疑われもおかしくないだろう。それでも文句を言わない――顔にはありありと出ているが――のは力関係が明らかにこちらに傾いているからだ。


「わぁお」


私達には勿体無い船、とミリオンズの視線など気付いてない、または気にしてないといった風にナマエは船の垂直な感想を述べた。


*


アラバスタを出航し、船が完全に海に囲まれたときナマエの円の中に入る感覚がした。相変わらず誰かの円の中に入るというのはいい気がしないが、この世界でその“誰か”に当て嵌まる人物はナマエしかいない。こう何度もナマエの円に入ることがあるせいでいつの間にかナマエの円に入ることに慣れてしまっていた。……人の円に入ることに慣れてしまっただなんてジンさんにバレたらなんて言われることか。
ナマエは円を広げ完全に周囲に気配がないことを確認すると振り返り瞳を俺に向ける。からりと笑ったナマエの顔は、お見通しだと砂漠で見た顔と一緒だった。


「じゃ、B.Wに潜入して諜報活動に励んでる人達と、今後の、未来の話でもしようか」


どこでだろうか。前もこんな表情を見たことがあるような気がした。

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