一周年 | ナノ


03

「ウェンズデーちゃん」


私のことをそう呼ぶフロンティアエージェントは一人しかいない。きっとその彼女なんだろうと振り向けば、案の定、脳内で浮かべていた彼女がペアの相手であるMr.10と並んで立っていた。「こんにちは」。にっこりと笑った彼女“ミス・テューズデー”は以前本人から聞いた年齢が大人として見てもらいたくて鯖を読んでいるんじゃないかと疑いたくなるくらい若く見える。私の一回りほど上というよりは同い年と言ったほうが正直納得できるし、せめて二十歳だろう。しかしフロンティアエージェントに年齢は関係なく、関係してくるのは地位である。実力が物言う会社なため隣り合わせであっても二桁代であるミス・テューズデーは一桁代の私より立場が下なのだが地位を気にすることもなく気軽に呼んでは気軽に話し掛けていた。それに比べてMr.10は挨拶代わりに頭を一つ下げただけで一言も喋ることはなく相変わらず無愛想だ。この二人ちゃんと意思疎通ができているのかしら。


「ミス・テューズデー、こんなところでどうしたの?」


ここはウイスキーピーク、賞金稼ぎの巣だ。これといって自慢できるものがないため上からの使いでなければB.Wの社員が好き好んでくることは滅多にない。それにもし私達を片付けにくるのなら普通私達よりも実力のあるペアを使いに出すはずである。


「ここって酒造が盛んなんでしょ?飲んでみたいってMr.10が言うからさぁ」
「……お前もだろ」


彼女から出た台詞はかなり個人的な事情で、少し警戒していた自分が馬鹿らしく思えた。彼女達はフロンティアエージェントなのだから部下であるミリオンズの誰かに調達するよう頼めばいいものをわざわざウイスキーピークに自ら足を運ぶほど酒が好きなのか。B.Wは社員の素性を一切知らされない会社だがこの二人に関してはこうやってどうでもいい情報ばかりが入っていた。まあ、肝心な情報は一切渡そうとしないのだからそういうところは一応しっかりとしているんだろう。


「はぁ……そういうことならMr.8に頼むといいわ。彼、ここの町長だもの」
「なるほど、そういえばそうだったね。ところでそのMr.8は今どこにいるかわかる?」
「そこまではわからないわ。町のどこかにいるでしょうね」
「そりゃそうだ」


素っ気なく返事を返しても嫌な顔せずミス・チューズデーはカラカラと笑う。かと思えば今度は「ここ人が多いから探すの面倒臭いんだよね」とわざとらしい溜息を吐きながらぼやいた。人探しが得意なミス・テューズデーが言えばその台詞も十分わざとらしく聞こえるが本人はそういうつもりで言ったわけではないだろう。本人曰く半径二キロメートルくらいならなんとなく勘でわかると言っていたの思い出したがその時と同様、勘で済まされる距離じゃないというかなぜ大体の距離がわかるのかと疑問を抱いてしまった。Mr.10も得意らしいがミス・テューズデーほどではないとのこと。しかし勘だけで言うならば彼のほうが冴えているらしい。なんでも野生の勘がすごいんだと聞いたが彼がどういった人生を送ってきたのかなんてのは知らないし、滅多なことがない限り私が彼と話すことはないため教えてくれたのはミス・テューズデーだ。「それじゃあ、またね」。そう言いながら手を振る彼女に一度だけ手を上げて「ええ」と素っ気無い返事をして私は踵を返した。

後日、有り得ない量の酒を二人が買っていき、さらにはおいしくて一日で飲んでしまったと感想をもらった、とMr.8が教えてくれた。

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