一周年 | ナノ


02

ポーカーとルーレットのテーブルが怪しいと連絡が来たのは空が茜色に染まる夕暮れ頃だった。その二つのテーブルに座る客、男女は特にイカサマをしている様子には見えず、ただ淡々とゲームをやっているようだが、運の良さが明らかに怪しく見えた。ポーカーの席に座る女性のほうは見た感じ手馴れているようで、楽しそうにやっているが、ルーレットの席に座る男性は運試しのように「じゃあ」や「なら」などと言ってはそのときパッと浮かんだのであろう数字や色を適当に上げて一目賭けや二目賭けで次々と当てている。時折負けてはいるようだが、それでもその次にはそれを取り返す勢いだ。イカサマではないというのならディーラーを買ったのかと疑問に思うが、そうではないらしい。


「ちょっと一緒に来てもらおうか」


イカサマをしたという証拠はない。証拠はないが怪しい点は拭い去れないためか、上から何かあるようならば多少痛い目をみせてもいいと命令がきたのだ。こうやってカジノ側に声を掛けられた場合大抵の客が顔色を変える。しかしその二人の男女はどちらも驚くことや怖じけることをせず、落ち着いた返事をした。


「どうやったら目に掛けてもらえるのかなぁ、って思ったんですよ」
「……どういう意味だ」
「私達、B.W(バロックワークス)に入れてもらいたくて」


B.Wがどんなものであり、どれだけの社員がいて、どれだけの力があるのかを知っているのか知らないのか、女は飄々とした態度で述べた。「ど、どこでそれを……!?」。俺の背後に立っていた数名の内の誰かが驚いたように声を上げる。当然だろう。B.Wは秘密犯罪会社であり、秘密主義に徹底しているため、こちらから勧誘をしなければ基本知られることはないのだ。それが徹底しているからこそ、世界政府にも把握されていない。それなのにどこから情報が漏れたのか、それがわかるまで二人を逃がすわけにはいかなかった。


「……支配人に連絡しろ」


B.Wを知っているのなら消さなくてはいけないが、念のため上に連絡を入れる必要がある。子電伝虫を持っていた一人が俺の言葉に反応して支配人に繋いだ。長髪の男のほうがどこにでもいる子電伝虫を興味深々に見つめていたのは気のせいだろう。子電伝虫は二度ほど鳴って『問題は解決したのかしら?』と支配人の澄ました声を発した。問題は二人を裏へ連れて行くところまでしか解決していない。むしろ解決したと言ってもいいのだろうかというほどの進歩だ。子電伝虫の音量が大きめのためか、二人にも聞こえたらしく女が「支配人さん綺麗な声だなァ」と緊張の欠片もない独り言を呟いた。独り言ではあるがそれは支配人に届き、支配人はそれに対して『あら、ありがとう』と上品に笑いながら返す。俺はよくこの状況でそんな会話ができるなと呆れながらも、支配人に男女二人のB.Wを知っていた件について話した。


『あなた達はどこでB.Wについて知ったのかしら?』
「偶然、偶々、思いがけず、ですよ。フラフラしてたらそちらの社員の方が別の方を勧誘している場面に遭遇しましてね。盗み聞きするつもりはなかったんですが私達も今仕事を探してる最中だったので丁度いいなァと思いまして」


女はまるで準備されていた台本を読んでいるかのようにスラスラと言葉を並べていた。


『見知らぬ怪しい人をそう簡単には組織に入れることはできないわ』
「やだなァ。それなら組織のみーんなが見知らぬ怪しい人じゃないですか」
『それもそうね』


うふふ、あはは。まるで紅茶を片手にお喋りをしているかのような落ち着きのある会話にその場にいた全員――女の知り合いであろう長髪の男も――呆気にとられていた。しかしそんな俺達などお構いなしに世間話のように続く会話の内容は次第に落ち着きのあるとはいえない方向へと変わっていく。呆気にとられて後のほうの会話をしっかりと聞いていなかったせいで突然ひぃ、ふぅ、みぃ、と俺達を指差しながら数え出した女が何をしたいのかがわからなかった。俺を入れて五人、数えずともパッと見ればわかる人数はあっという間に数え終わり、それを感じ取った支配人は『どうするの?』と女に質問した。唸りながら顎に手を添えた女は長髪の男と二人であーでもない、こうでもないとブツブツ会話を始め、二分ほど経って「よし」と女のほうが声を上げる。


「私達二人でここの五人を三分以内に沈めましょう」
『三分で大丈夫かしら?彼らもカジノで警備をしているからそうやわじゃないわよ』
「でもこれならB.Wに入れることを認めてくれるんでしょう?」
『ふふ、期待しているわ』


どうやら先程の会話でそこまで決まっていたらしい。女は事も無げに言ってのけるが俺達が“ビリオンズ”だと知らないからに違いない。『じゃあ終わったら連絡をちょうだい』とだけ言うと支配人は通信を切ってしまった。それを確認して俺達五人が五人、ニヤリと笑って顔を合わせる。俺達からすれば小柄と言える女一人に細身の男一人、片付けるのは簡単な話だ。それにこいつらが稼いだ金も全て返ってくるため上から罰が下されることもない。ポキポキと指や首を鳴らして歩み寄ろうとすると、今からやられるであろう二人も同じように、笑ってから、一言。


「実はそんなにやわじゃないんですよねェ、私達も」


*


「一分でもよかった気がする」
「ナマエは二人しかやってないだろ」
「カイトが三人やってくれたからね」


パタパタと砂埃を払って地面へと落ちている子電伝虫を拾い、それも同じように砂埃を払った。この世界にはない念能力を使えば兵(つわもの)でない限りサクッと終わらせられる。カイトのように武器を具現化して攻撃するならともかく、私のようにオーラを使っての攻撃は通常であれば一般人――この世界では念能力者は私達以外いないため全ての人に当てはまることだが――には危険なため滅多な事がない限り使わない。しかしどうやらこの世界では違うらしい。

砂漠を歩く途中で遭遇してしまった巨大なトカゲに念能力をうっかり使ってしまったところ、殺していないにも関わらず精孔が開いた様子はなかった。試しに精孔をこじ開ける方法と同じようにやってみてもやはり開かない。それでも少し確信が持てなかったためそのトカゲで他にも色々と試してみたところ――先に襲ってきたのはトカゲのほうなので罪悪感は一切ない――この世界で私達の念能力は一般人に使っても何か起こるわけではない、つまり悪魔の実を食べた人間のようなただの能力者ということがわかった。まるで郷に入れば郷に従えと言われているようだ。まぁ、オーラは見えるのでやはり多少は違うところがあるし、悪魔の実の能力者と同じように海に弱いのかどうかはわからない。あとで確認する必要がありそうだ。


「それじゃ、連絡入れますかね」


ロビンとの交渉で半分は返すことになってしまったがお金と情報、どっちも手に入る一石二鳥の話とはまさにこれである。私はこのまま順調に進むことを願いながら子電伝虫を“ミス・オールサンデー”に繋いでもらうことにした。

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