一周年 | ナノ


01

まるで火で炙られているかのように、じりじりと肌が焼けるのを感じた。


「………暑いッ!!」


暑さに耐えれず飛び起きると、なぜか外にいた。……夢遊病かと考えたが昔こんなことを考えて実は違う世界に飛んでしまっていたため夢遊病という線は消しておこう。ここはハンター世界だ、きっと。というかそうであってくれ。

辺りを見回せば明るい路地裏で、どうして私は外にいるんだと首を傾げた。記憶が正しければ私はやっとのことで仕事が片付いて久しぶりに家に帰ったはずだ。気付かないうちに泥のように寝てしまうほど疲れていた記憶はない。ということはこれは夢ではない、と思う。
嫌な予感しかしないため現実逃避のためにもう一度睡眠体勢に入ろうとするが肌を刺すような暑さが耐え切れず立ち上がった。寝てる暇なんてあったら現実と向き合ってまずは現状とここがどこなのかを確認しろということなのかもしれない。


*


「らっしゃーい!」


昼食を取る親子や真っ昼真から酒を飲む男性、楽しそうに秘密話をしている女性、活気のある賑やかな店に店主であろう人の声が響く。私がカウンター席へと進み適当に空いている席へと座れば店主はにっかりと歯を見せて笑った。


「見ねェ顔だな。譲ちゃんどこから来たんだい?」
「あー……ちょっと遠くから。私旅をしてるんですけどここのことよくわかんないから色々と教えて欲しいんですよ。この国というか、街の見所とか?」
「お!それなら任せとけ!で、注文は?」
「そうだなァ……昼まだ取ってないのでこの店一番のオススメで!」


おじさんにつられて笑えば「はいよ!」と切れのいい返事をされた。話してて気持ちのいいおじさんだがここがハンター世界ではないことは私にとって気持ちのいいものではない。じゃあどこの世界なんだと聞かれてもわからないので今それをハッキリとさせるためにおじさんに話しかけたわけである。ちなみにハンター世界ではないとわかった理由は目に入る文字の全てが英語だったからで、もしかして元の世界かと淡い期待を抱いたがよく観察してみると異なる点がいくつか見つかったので違うという結論に至った。


「おまちどうさん!」


相変わらず気持ちのいい笑顔を振りまくおじさんにお礼を言うと、おじさんは軽く返事をしてこの国、アラバスタ王国について説明し始めてくれた。ここは偉大なる航路(グランドライン)前半のサンディ島にある砂の王国であり、今私がいる場所はエルマルという町らしい。ここエルマルは別名、緑の町と呼ばれるらしく、日暮れで少し涼しいときにでもゆっくり散歩してみるといいと勧められた。万が一海賊と出くわしてもあの王下七武海のクロコダイルがいるから安心していいと。

『アラバスタ王国』『グランドライン』『海賊』『王下七武海』『クロコダイル』この単語、なんだか聞いたことあるなぁ、と惚けたい。惚けても意味がないとわかっていても惚けてしまいたい。……ハンターハンターの次はワンピースだなんて!!!!!

この世界の知識は原作を見ていたから搾り出せば辛うじて出てくるが、ワンピースはハンターハンターと違いしっかりと読み込んでいない。単行本を集めていなかったので新刊が出たら友達に借りて読む程度だったため何度も読み返すことがなく、そのため大まかな流れしかわからないのだ。それにアラバスタ編とかいつの話だと文句を言いたい。私はハンター世界にいる間のこともあるためもう何年も離れているのだ、クロコダイルがイケオジすぎて大好きすぎるってことくらいしか覚えてないよ!クロコダイルが英雄として呼ばれているから確実に原作前、またはルフィ達が来る前だろうが、もしそうならたしか干ばつした町が存在するはずだがおじさんはアラバスタ王国はどこに行っても見所があると言っていたので干ばつする前だと思う。

ご飯を口に運びながらブツブツと考えているとまた客が入ったのか、おじさんが声を上げた。


「すまない、少し聞きたいことがあるんだが」


……ん?
入ってきた客なんだろうが、あまりにも聞き覚えのある声に聞こえたため私は食事を中断して顔をあげた。


「……カカカ、カイト!?」
「ナマエ!?なんでお前がここに……」


それはこっちの台詞だ!私が飛ばされただけならまだわかる。しかしカイトまでとなるとなんの意味があるのかもわからない。何も知らないおじさんはそんな私達を交互に見て「知り合いか?こんな広い海で偶然会うなんて良いことありそうだ!」と暢気に笑っているがこの状況がすでに良いことではないのだから全く笑えない。しかしカイトがいるということはハンター世界に戻れる可能性があるということだ。……たぶん。


*


ずっと続く灼熱の砂漠をナマエの言う通りに進みながらここが漫画の世界だと説明され、暑さでとうとうやられたかと心配になったのは言うまでもない。だがナマエはふざけている様子もなく、真面目に話していたため否定したくてもできなかった。わかるわけがないだろうにこの世界を少しだけ知っているというナマエについ元の世界に戻れるのかと聞いてみれば、戻れるよと返ってきて予想外の答えにかなり驚いた。しかし何を根拠に言ってるんだと口に出さずに考えていると「勘だけどね」と適当な言葉を後付けされたので当然頭を抱えたくなった。


「……暑いな」


本当に漫画の世界なのかと思うほど暑さがリアルで、先程の店の主人も本物の人間だ。それを考えるとここにいる間は漫画の世界とは考えずに俺達のいた世界と同じような目で見るのがいいだろう。本人達はここで生きているんだからそれを漫画の世界の住人だと言うのは失礼だ。

じっとりとした汗のせいで髪が首へくっつき、鬱陶しく感じたので払えばケラケラとナマエの笑い声が聞こえた。


「……なんだ」
「いやァ、カイトって細身だし髪長いし、今はストール巻いてて顔が隠れ気味だから端から見ると長身の女性に見えなくもないなと思ってさ」
「……聞きたくなかった」
「そっちが聞いてきたくせに」


未だに笑っているナマエもやはり暑いのか、ストールを掴んで扇いでいる。


「そういえば、いつまでここにいることになるかわからないが金のほうはどうする?」


金がなければ生活はできまい。一応、何かあった時のためにとお互い換金できるものをいくつか持ち歩いているがこれもそう長く生活できるほど多くはない。さらに『木の葉を隠すなら森の中って言うでしょ?』とナマエが言ったためこの国に馴染むような服を買う羽目になった。ナマエにも考えはあるんだろうが、あまり得策とは言えない気がする。そんな俺の考えとは裏腹に、ナマエはまるで心配事なんてないかのようににんまりと笑ってみせた。……これは良からぬことを考えてるときの顔だな。


「お金と情報、どっちも手に入る一石二鳥の方法があるんだなぁ、それが!」


そんな顔で言われても安心なんてできないと言ってやりたい。

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