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カイトは恋をしているらしい。

誰かに聞いたわけでもカイト本人から相談されたわけでもないのだが、時折見せる思い詰めた表情や溜息がそれを物語っていた。気付いたその日に『カイトって好きな奴いんの?』と面白半分で訊いてみたところ、うんともすんとも言わなかったカイトだが、返事は顔色を見れば一発だった。カイトちゃんったら真っ赤な顔してかわいいねぇ!ヒューヒュー!

それから勝手にカイトの好きな人は誰でしょうゲームを開催することにした。参加者は俺だけである。というか俺しかいない。特別ゲストでジンも混ぜてやろうかと思ったがさすがのカイトでも師匠に自分の恋愛事情がバレるのはつらいだろうからやめておいた。いやぁ、俺ってば友達思いのいいやつだなー!

まず手始めに周囲の女の子――行きつけの店で働いている一番よく会う子達――に対するカイトの反応を探ることにした。あ、カイトには俺がカイトの好きな人は誰でしょうゲームを開催しているのは内緒だ。バレたら余計なことすんなって殺されそうだし。で、話を戻すが、一週間ほど観察してみたが収穫はゼロだった。よく二人で飯を食いに行く店のウエイトレス、キャシーちゃんの前で頬を薄く染めたように見えたがその一度きりだったのでたぶん違う。人前で俺がアーンなんてやったから恥ずかしいやめろって意味で染めたんだと思う。

俺の一週間の調査結果より、周囲の女の子は対象外となった。なら一目惚れでもしたのか?だからあんなに思い詰めてんのか?と考えが浮上してきたがカイトの性格上、一目惚れはまずない。あいつ結構疑い深いとこあるしな。ということで一目惚れの線も消える。

ここまできて俺はある一つの可能性に辿り着くことなる。そう、カイトは“男”が好きなんじゃないか、という可能性だ。俺は好きなら男でも女でもどっちでも構わない所謂バイセクシュアルだ。愛に性別も民族も関係ねぇぜ!こう言えば愛に生きる男って感じもしなくないが、金がなけりゃ育む愛も育めないと思ってるので純愛思考というわけではない。お金って大事だよね。


「俺ってバイなんだよね」
「…………バイ?」
「そ。男も女もいけるぜ!ってやつ」


グッと親指を立てて言い切ればカイトがお茶を吹き出した。タイミング良く茶なんか飲みやがって……。まあ、数年の付き合いだというのに今さらなんの前触れもなくカミングアウトされたんだから驚いてもおかしくないか。にしてもカイトはさっきからコロコロと表情を変えて忙しそうだなぁ……俺もカミングアウトするべきかとか考えてんだろうか。しかしカイトが落ち着いた頃に返ってきた言葉は「なんで急に?」だったので言いたくないなら別にいいやと俺は気にも留めず「なんとなくカミングアウトしてみたくなった」と適当に答えた。

俺がカミングアウトしたことによって情報を一つ、やっぱりカイトは“男”が好きだってことを得た。なんでわかったのかというと、俺がバイということを知ってカイトが安堵の色を見せたからだ。嫌悪なんてものは一切なかった。この情報はでかい!重要、超重要!テストに出るぞ!

確信を得た俺はその日からまたカイトを観察することにした。野郎共のほうが女の子に比べて人数が多いから大変かなぁ、と思っていたがそれは杞憂に終わる。男限定にちゃんと見てればカイトってばすっげぇわかりやすいんだもん!もっと隠せよカイト!
そしてその結果、一人の人物が挙げられることになった。そう、俺…………俺だ。う、自惚れじゃねぇよなと不安になるが、カイトが無意識か知んねぇけど思わせぶりな態度を俺にばっか見せてくんだもん……たぶん自惚れじゃねぇよ……。


「なぁカイトー」
「ん?」
「……や、なんでもねぇわ」
「なんだそれ」


気付けば俺までカイトを好きになっていた。絆されるってこういうことかなぁ、と自分に呆れてしまうが、俺の顔を見て何か葛藤している姿が愛しくてたまらないのでこの気持ちは嘘じゃないと思う。きっと今までだったらそんな表情を見ても晩飯何にするか悩んでんのか、とそんなアホみたいなことしか考えなかっただろう。だからこそ、わかってしまうと可愛くて可愛くて、つい好きな子にいじわるしたくなる悪ガキの気持ちが俺にはよぉく理解できた。


「……何にやにやしてんだ」
「いや、カイト可愛いなぁ、ってね」


こんな可愛いなんて単語、野郎に使うのは――況してや口にするだなんて――カイトが初めてだ。にんまり笑って伝えればみるみるカイトの顔が林檎のように真っ赤に変わったがそれは照れて真っ赤になっているだけではないように見えた。


「…………男だぞ?」
「だから?」
「……俺が可愛いだなんて頭おかしいんじゃないか」
「何、俺のこと気持ち悪いって思った?」
「ちが――」
「じゃあ俺がバイだってカミングアウトしたときにはっきりと気持ち悪いって言えばよかっ――」
「違う!!」


俺がカイトにそうしたように、カイトも俺の言葉を遮った。「何が違うんだよ」とわざと聞き返してみればカイトはしまったとばつの悪そうな顔をして顔ごと逸らそうする。おおっと、ここで逸らすのはルール違反ってやつじゃないか?俺はカイトの顎を掴んでそれを阻止しようとしたが簡単に振り払われてしまった。そんなされたら拒絶されてるみたいでショックじゃん、やめろよなカイト。ちらりともこちらを見てくれないカイトの顔からは気付けば熱が引いていて、頬と耳がほんのりピンク色に変化していた。その様子から見るとカイトは幾分、冷静になってきているはずだろうに真一文字に口を結んでしまって話す気はないようだ。


「……カイトってさ、俺のこと好きだろ?」


他人が聞けば百パーセント自意識過剰な台詞。本当に俺の自意識過剰なら恥ずかしいが、そうだったら今の俺は恥ずかしいより落ち込むほうが大きい。そんな俺の心配など知らないであろうカイトはやっと顔をこっちに向けたかと思えば赤くしたり青くしたり、百面相をしている。あーもう、やっぱり可愛いなぁ!

膨れ上がる気持ちと勢いだけで行動した俺は顎を掴んだときよりも強くカイトの胸ぐらを掴み、噛みつくようなキスをした。……ような、というか、本当に歯を立てたからカイトの薄い唇から血が滲んでしまっている。行き場のない手をうろうろさせてそれ以外は完全に固まっているカイトのことなどお構いなしに俺は何度か角度を変えながらキスを続けた。ディープなのはやってないからセーフ!何がセーフでアウトなのか全くわからないがセーフ!たまに漏れるカイトの息がすげぇエロいとか別に思ってねぇからな!!ゆっくりとお互いの唇を離せば名残惜しくなりそうな気がして、俺は掴んでいた胸ぐらを思いきり突き飛ばした。


「これで俺が言いたいことわかんねぇっつーんなら、今度こそ窒息させてやろうじゃねぇか!」


自身の唇にもついてしまったカイトの血をべろりと舐めとりながら言えばようやく状況が把握できたのか、煙でも出るんじゃないかというほど顔を羞恥で真っ赤にして口をパクパクするカイトに俺はニヤリと笑ってやった。

ヨクジョウ、しちゃう

リクエスト内容:葛藤するカイトとそれに気付いてにやにやする男主
最後にくっつく話、ということだったのでこういう形になりました。これは完全にカイトが尻に敷かれるパターン!!

匿名様、リクエストありがとうございました!

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テーマ「人外ファンタジー」
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