50000 | ナノ


クラピカという不思議な人間を私は知っている。
数年前に隣に引っ越してきた子だ。残念ながら今はクラピカはここには住んでおらず、全く違う人が隣に住んでいる。どこか別のところに引っ越したのかと思えばそうではなくて、クラピカは色んな場所を転々としていた。まるで一匹狼のようだが律儀なのか、年に数回、必ずここへ寄ってくれている。

初めてクラピカに会ったとき、てっきり私は大家さんの孫かと思った。だってまだ12歳か13歳の子供だったんだもの、勘違いされても仕方がない。それで孫かと思ってたら『私は隣に越してきたクラピカという者だ。よろしく頼む』なんて言われたから本当の本当に驚いた。最近の子ってしっかりしてるなぁ、なんて感心もした。この歳の頃の私なんて鼻水垂らしながらヤンチャやってたような気がするよ。

不思議な不思議なクラピカちゃんは最初性別も謎だった。サラサラで天使の輪っかができてる髪にまぁるい大きなキラキラとした瞳、世界が嫉妬する可愛さだ。 だけど体つきは少女というより少年のようだし、背も12、3歳の少女にしては高い。ちなみに喋り方は男っぽいのだが、一人称は私である。
チグハグだらけでどっちなのかわからなかった私は会って次の日に『クラピカちゃんってさ』とあえてちゃん付けで話し掛けてみることにした。だって呼び捨てなんて馴れ馴れしいこともできなかったし。それで返ってきた返事が『私は男だ!』だったから私のモヤモヤは綺麗さっぱり解消された。私の数倍、いや、もっとか?こんなに可愛いのに男の子なんて神様は不公平だなぁ、と男の子だとわかったにも関わらず私は彼のことを“クラピカちゃん”と呼ぶことにした。もちろん嫌味である。

そのせいで最初はお隣さんだというのに全然うまくいかないし、なついてくれなかった。お姉さん子供好きだからあれは悲しかったなぁ。でも私の努力が伝わったのか、日に日に仲良くなっていった。おませなクラピカは私のことを“ナマエ”と呼んでいて、私としては“ナマエお姉ちゃん”と呼んでほしかったがこの際ワガママは言わないでおこうと心に決めた私は素敵な大人のお姉さんだと思うよ!

で、どうして私がクラピカとの過去の話を思い出したのかというと、これには山より高く海よりふかぁい訳………はこれといって特にないんだけど、あの連絡も入れずに突然やってくるようなクラピカがなんと珍しく明日ここへ来るという連絡を昨日入れてきたからだ。いやはや、クラピカちゃんってば大人になっちゃって…そりゃ私も年取るよなぁ……。

嬉しいような悲しいような、沁々した気分に浸っていると年期の入った壊れかけのインターホンが鳴った。誰か来たらしい。覗き穴から覗いてみれば向こう側に見えるのは相変わらず綺麗で真っ直ぐとした姿勢で立っているクラピカである。可愛い顔も昔のまま健在だが、また少し見ない間に逞しい男の子の身体へと成長を遂げていた。しかし身体なんてのは今どうでもいい。それよりも気になることが私にはあった。扉を開けて開口一番、驚いたように私は声を出した。


「わっ!クラピカちゃんが念能力覚えてる!」
「……………ナマエは念能力者だったのか」
「へへっ、うん、そうだよ〜」
「……どうして私がハンター試験のあとにここへ来たとき言わなかった。裏ハンター試験のことも知ってただろう」
「んー…あのとき教えたほうがいいのかなって一応思ったけど私が師匠とか絶対無理だし、言わなくても結局クラピカちゃんは自力で念能力に辿り着いて誰か素敵な師匠を見つけるんだろうなぁ、って思ってたから言わなかったの!」


ここまで言えばクラピカだってわかるだろうが、私はただの念能力者ではなくハンターだ。実は一ツ星(シングル)ハンターだったりするのだが、訊かれてないからこれは言わなくてもいいだろう。


「しかしナマエは大学生…いや、今は大学院生じゃなかったか」
「へ?私学生でも院生でもなくて学者だよ?」
「……大学に行くと言ってよく家を空けてたのは」
「学生じゃなくて教授としてだねぇ」
「年齢に嘘をついているわけじゃ」
「ないんだな、それが。ジャポンと違ってこっちは飛び級制度があるからね」


訊かれたことをありのまま素直に答えれば、クラピカは口をぱくぱくと魚のように開閉していた。まあ私がクラピカに会ったときは私もまだ二十代になったばかりだったから学生に間違われるのも当然だ。年齢もそうだが、私の性格や喋り方がこんな感じだから初対面で私のことを学者、教授、博士だなんて思う人はいない。クラピカが驚いているように、これが他人事であれば私も同じように驚いていただろう。


「何故言わなかった!?」
「訊かれなかったからだよ?」


思わずキョトンとした顔になってしまう。だって私は別に隠してたわけじゃないから訊かれれば素直に答えていたもの。クラピカが来年のハンター試験を受けると言ってきたときはハンター試験の内容の手助けでもできればいいなと思いはしたが、ハンター試験の内容なんてそのときの試験官の気紛れだから先にどんな内容がでるのかわかるはずもない。だから余計なことは言わずに『そっか。大変かもしれないけど頑張ってね!』と無難な言葉を返したような気がする。数ヶ月前の話だけど懐かしいなぁ…と思い返していれば明らかにわざとらしい溜息が聞こえてきた。


「私はいつまで経ってもナマエの前を歩けないな」


前を歩くも何も、クラピカちゃんは私より年下なんだから年下らしく振舞っていればいいじゃないか。普段ハッキリと物を言う私だが今回は無意識に内心でごちるだけに終わった。たぶん、クラピカの悔しそうな顔を見てしまったからだと思う。今もよくわからない不思議な点が多いクラピカだが兄弟も姉妹もいない一人っ子の私にとって可愛い可愛い弟のような存在だ。お姉さんとしてクラピカのお手本になろうと前を歩きたいのはむしろ私のほうである。そもそもクラピカは何を基準にそんなことを言っているのか。知識?技能?それかハンターになるのを先越されたと?いやいやまさかそんなことに意地を張るようなクラピカちゃんではあるまい。もしそうだとしたらあれか、『俺、姉ちゃんより強くなって、姉ちゃんを守るんだ!』っていうやつか。ゲームとかアニメとかの展開にありそうだね!やだクラピカちゃん可愛い!


「ねえねえ、クラピカちゃん」
「………なんだ」
「前を歩くのは当分譲るつもりないけど、強くてかっこよくなったクラピカちゃんにならちょっとは頼ってもいいかなぁ、なんて思ってるよ」


へへへ、とだらしない顔で笑って言えば、クラピカの顔が見る見るうちに真っ赤になって「……ちょ、っとじゃなくてたくさん頼ってくれて構わない!」とつっけんどんな口調で返事をされてしまった。

ボタンの掛け
これがツンデレってやつか!かっわいいなぁ、クラピカちゃん!


リクエスト内容:クラピカと女主
一方的に弟と思ってる主人公と一方的に恋心抱いているクラピカのお話でした。書いてるうちに、あれ?主人公からチート臭してね?ってなったけど設定特になかったので自由に書かせていただいてます。楽しかったです!

匿名様、リクエストありがとうございました!

[ back ]



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -