追われる男 | ナノ


お前、狙われてるんだってな。なあ、逃げたいと思わないか?…いや、それができるんだよ。ただし命が助かる代わりに金とお前の大切なものが一つ消えるがな。信じるか信じないかはお前次第。死にたくなけりゃあ、ここに連絡するといい。







男は追われていた。今にも殺さんとする顔をした男達に。
男はなぜ自身が追われる身になっているのかをよぉく理解している。目の前の金に欲を出し、踏み込んではいけない領域に足を突っ込んでしまったからだ。

短く途切れる息は男の体力の限界を知らせていた。男は元々スポーツマンではない。見た目も一般男性より少し太いほうだ。普段鍛えている追う側の連中からすれば本気を出さずとも捕まえられるどうってことのない人間なのである。

暗闇で確認しづらい路地裏はあまりここのことを知らない男が逃げるには十分焦らせる要因となっていた。男の焦りは不安へと変わり、その不安が恐怖へと変わる。時間はそう多く必要なかった。恐怖が支配する中で銃を所持しているであろう男達との距離はじりじりと狭まっていき、足元は全くと言っていいほど見えず何かしらに躓いて転びそうになる。転んだら終わりだ。男はそれだけが脳内を過り、根気で体勢を持ち直した。
そして段々と恐怖で周りが見えなくなり始めている男が何とか確認できて入った曲がり角は、絶望的なものだった。


「っ行き…止ま、り…?」


そこにそびえ立つ壁は一般人には登ることのできないようなものであり、精神的にやられていた男にはソレが現実よりも高く、襲い掛かって来るように見えた。振り向けばニヤリと歯を見せ笑みを貼り付ける男達。もう、駄目だ。追われる男、否、追われていた男は悟った。


「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁぁぁああ!!!!!」


プツンと張り詰めていた糸が切れたかのように腹の底から出された声。多少人がいてこの時間でも店に明かりが灯してあるようなところであれば誰かしら気付いてくれていたかも知れないが、生憎にもここはゴロツキが集うような裏路地。間違っても救いの手は差し伸べる馬鹿はいないだろう。追っていた男達は絶叫に驚くことはなく、ゆっくり、一歩一歩、男に歩み寄っていた。

キラリ、何かが暗闇で一瞬、反射するように光った。男達は銀色に光ったソレがナイフだと気付くとニヤついていた顔にピクリと反応を示す。しかし例え男が襲ってきても銃を持っている自分達には勝機しかなく、向かってきたが終わり、蜂の巣だとその内の一人は思った。だが蜂の巣にするどころか、銃を使う必要もなかった。男は届きもしない距離で無闇矢鱈にナイフを振り回すだけで襲ってこない。誰かがその姿を馬鹿らしいと小さく笑った、次の瞬間、暗闇でも辛うじて目視できる赤い赤い血の色が宙を舞う。
追っていた男達は予想外の出来事に誰もが目を見開いた。

男が血走った目で掻き切り飛び散らせた血は、間違いなく、男自身の首から出たものだったのだから。

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