嚥下狼 | ナノ


あらあらまあまあ

誰も取らないというのにチョコレートケーキを口いっぱいに頬張るキルアの幸せそうな姿をイルミはただただ眺めていた。小さなしこりのような苛々とした気持ちもそんな姿を見れば全てどこかへ飛んで消え去ってしまう。コイビトもトモダチも、自分は弟さえいればそんなものいらない。イルミは母親のキキョウが年頃なのにと喚いていても気にさえ留めていなかった。


「イル兄ってこういうの興味なさそうなのに、よくこんなうまい店知ってんね」


視線はチョコレートケーキに投げ掛けたまま、キルアはイルミに話しかけた。キルアの中でイルミとケーキはイコールで結ばれていない。イルミがケーキを食べているところなんて見たことがなかったせいか、むしろ真反対のものだと思っていた。


「教えてもらった」
「知り合い?」
「知り合いって括りに入れたくないような奴」


イルミはスコルと自身が知り合いだと思われることに、まるでヒソカと知り合いかと訊かれたときのように嫌な気分になった。イライラ、イライライラ。スコルのことを思い出せばそれとセットで昼間に見た女の姿まで浮かんでくる。そのせいでかなり嫌そうに返事をしてしまったがキルアからすれば淡々と返事をしているだけにしか見えず、キルアは「ふーん」とどうでもいいようにもう一度チョコレートケーキを頬張った。


「……キルが修行を頑張るっていうんなら今度そこに連れて行ってあげる」
「えっ!マジで!?」
「うん」


キルアはようやくイルミと顔を合わせたかと思うと口の中に入ったままのケーキを飛ばしそうな勢いで喜んだ。まるでキルアの周りにパアッと花が咲いているように見える。やっぱり持つべきものは弟だな、と考えながらイルミは苛々を忘れることにした。


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