嚥下狼 | ナノ


冷たい太陽

スコルはいつだってイルミの傍にいた。いつからかと言われれば、多分、つい最近。いや、一ヶ月前?最近と一ヶ月前が全く違うことはイルミも理解しているが、それくらいイルミはスコルという男に興味がなかった。

――じゃあ、スコルは?


「イルミ!好きだ!」
「気持ち悪いから消えて」
「今日も太陽みたいに輝いてるな!」
「言葉通じてる?」


真正面から現れたうえに訳のわからない告白を聞かされ機嫌が急降下するイルミ。無視をされても、言葉のキャッチボールが成立してなくても、付き纏うスコル。一方通行な想いであることは誰が見ても明らかなものだ。それでもスコルはイルミに自分の気持ちを伝えるのをやめることはなかった。

『お前、太陽みたいだな』

初対面でイルミはそう言われた。名前も性格も素性も知らず、にこりともしていない自身の顔を見てそんなことを言い出すのだからイルミはスコルのことを頭のおかしい奴だと思った。それは関わりを持ってしまった今でも変わりはしない。スコルの使った太陽という言葉は、お世辞にもイルミのような人間に使う比喩表現ではないし、何より嫌だった。暑苦しいし、崇拝されるような存在でも表だって目立つような存在でもない。どうせ例えられるなら月のほうがまだしっくりきたはずだろう。まあ、月と言われたところで納得するようなイルミでもないが。


「今から仕事か?」
「………」
「ねえねえイルミー?」
「………」
「教えてくれないならついて行こう」
「仕事」


黙っていればしつこく話し掛けてくるのがスコルだ。基本的に無視し続けるイルミには相性が悪い。確かに今から仕事に行くつもりだったイルミはついてこられると邪魔だし、面倒臭いし、そもそもその時間もずっと一緒にいることになるが嫌だったので仕事だとそれだけ伝えた。詳しいことを教えないのはゾルディック家の信頼に関わることであり、当然だ。仕事だとわかればスコルは「そうか、頑張ってなー!」と笑顔で納得し、イルミが飛行船に乗って飛び立つまでブンブンと大きく手を振っていた。イルミがそれを見ているわけでもないのに、わかっていてもスコルはただ振るだけである。

飛行船が見えなくなってからスコルはその場を離れることにした。イルミがいないのならクルルーマウンテンにいても仕方がない。スコルはただイルミと話をするためだけにここまでやってきたのだ。スコルはふと思い出したように歩き出していた足を止め、先程の飛行船が飛んだ空を見上げて呟いた。


「いつ戻ってくるのか訊くの忘れてたなァ」


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