わるいゆめをみた | ナノ


19 ひとにはいえないよるがある


「刻一刻と死に向かって歳をとっているっつーのにそれを喜んで祝おうとする意味が俺には理解し難い」


し難いのではなくてできない、ましてやしようとも思っていないくせによくもまぁそんなことが言えることだとクロロは横目に見て思った。たしかにオメガは自身の誕生日が近くなるたびにオーラが不機嫌になるのを感じる。表情で判断しにくい分、オーラでわかりやすくなるのではと念を覚えたときに思ったが、やはりそれも表情と同じように変化は微かなものだった。それでも肌に刺さるオーラのほうがまだわかりやすような気もした。
オメガは誕生日を迎えるのは好きではないようだが、誕生日当日になるとその微かに痛かったオーラは綺麗さっぱり消失する。やはりなんだかんだ言っても嬉しいと思うのだろうか。そう勘違いをしそうになるが、その瞳の奥は真っ黒に塗り潰されたようになっているのを見て、クロロはただ頭を横に振るだけだった。


「クロロ、おめでとう」
「ああ、ありがとう」


面白いことに、オメガは変なところで律儀である。
クロロがオメガの誕生日を必ず祝うように(この場合クロロは良心から祝っているわけではないが)、オメガも同じようにクロロの誕生日を必ず祝うのだ。オメガがこの世界で覚えている誕生日は自身とクロロだけだった。他人の誕生日を記憶し、祝う必要がどこにある?オメガはそう疑問に思うもののクロロは知り合って十数年欠かさず祝ってくれるものだから、それじゃあ俺も、と便乗するかのように、事務的なことのように祝っていた。

蜘蛛ができ流星街を出た年から毎年、オメガはクロロの誕生日の二、三日前になるとふらりと姿を消して、誕生日当日にまたふらりと戻ってくる。宛らそれは気紛れな猫のようだった。そして戻ってきたかと思えば、クロロの好きそうなものを涼しげな顔で何事もなかったかのように渡す。初めは急にどこに行ってたんだと小言を言っていたが、その理由はすぐにわかった。勿論オメガが教えてくれたわけではない。二、三日前に見たテレビのニュースが教えてくれたのだ。

『深夜の美術館に何者かが侵入し、その場にいた警備員を全員殺害、そして――』

誰の仕業か、またもや旅団か、そんな見出しの新聞も出ていた。あれは俺が目を付けていたモノなのにどこの野郎が盗っていったんだとそのときは苛立ちを覚えたものの、お目当てのモノは自身の手に収まっている。しかもそれを盗んだのは、あのオメガなのだから、クロロは笑わずにはいられなかった。そして次の年からは誕生日の前はニュースや新聞を見ないようにした。


「フラフラ急にいなくなるなよ」
「約束は守ってる」
「そのまま消えてくれるなよってことさ」
「……まるで首輪だな」


基本的にオメガとクロロは行動を共にする。蜘蛛ができてから各々が好きな場所を拠点とし、好きなように過ごしていたにも関わらず、二人はいつも近い距離にいた。それは同じ蜘蛛だからかと誰かから訊かれることがあれば二人とも否と答えるだろう。なぜなら今のオメガは蜘蛛ではない。数年前に蜘蛛に接触してきたオモカゲという男に4番を譲ったからだ。その時、蜘蛛という枷がオメガから外れたのだが、今度は命令に近い約束という首輪をつけられた。「団員じゃないのに団員の秘密を知っている俺を殺さないのか?」そう尋ねたことがあったが「常にオレといるお前は死んでるも同然だろ」と簡単に返された。確かにそうだとオメガも脳内で納得した。俺の自由はすべてクロロに奪われたんだから、と。

そんな彼らも別行動をとることはある。だがそれはあくまでも同じ一つの街をふらふらとしているだけで、決して次の街に行くとどちらかが言わない限り勝手に消えることはない。次の街に行くと言うのは必ずクロロだった。オメガはその後ろを付いていくだけである。オメガに決定権がないなんてことはない。ただどこに行くにしても一緒のように感じるので全てクロロに任せているだけ。そして『街に着いたら次の街に行くというまでその街からは絶対に出るな』という約束を守るだけだった。オメガはその約束を破ることはないが、首輪のようだと思っていたし、実際クロロにそう伝えたことがある。クロロも否定はしなかった。だから、そういうことなのだ。


*


十九歳の誕生日を迎えたクロロにオメガはおめでとうと言えば、ありがとうと返ってくる。それからプレゼントを渡す。決まりきったやりとりだった。しかし今回は少し違った。プレゼントを渡されたときにクロロはオメガの手首を掴み、女を落とすかのような普段の武器を存分に使った甘い顔で笑った。


「お前はいつもオレに何も訊かずプレゼントを決めるよな」
「気に入らなかったのか」
「そういうわけじゃない」
「……なんだ、それなら何が欲しいんだよ」
「そうだな、オレはオメガが欲しい」


クロロの戯れだった。目を見開いたり、動揺するような反応を示したり、とにかくオメガの表情が変われば儲けもんだなと思ったがやはりというか、オメガの表情が変わることはなかった。やっぱりなとクロロは掴んでいた手を離し、さて、それならオメガがくれたモノを愛でようではないかとソファに座り直したが頭上で「わかった」という言葉に愛でようとした手が止まる。何が、わかった?それを脳内で整理する前にオメガは風呂へ行ってしまい、挙句の果てには上がったあとに「クロロも早く入ってこい」と言ったのだ。


「マジか」


クロロは思わず呟いた。

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