わるいゆめをみた | ナノ


13 よからぬこと


「オレが頭でお前達が手足」


クロロはそう言い放って、それからまた言葉を続けた。自分達は蜘蛛であると。クロロが言っていたのはこのことだったのかとオメガは静かに眺めた。オメガが知っているクロロはもう少し砕けた話し方をする男だったが、今の彼は違った。それは皆が皆、気付いていることである。どこからか「あれ、クロロ?」なんて声も小さく聞こえる。しかしオメガだけはクロロの本性に近いものを普段から知っていたし、クロロも気にせず接していたため驚きはしなかった。仮に知らなかったとしても、オメガが驚くとは思えないが。

それにしても珍しい。盗賊になるといっても後の危険を考えていないクロロではあるまい。名が売れればそれなりに命も危なくなる。最初の盗みで失敗すれば刑務所行きになる。それを理解したうえで“蜘蛛”になれと言うのなら、それなり以上の、絶対的自信がクロロにはあるんだろう。オメガにはわざわざ盗賊になり悪行を働く理由が理解できなかったが、それがクロロの求める欲を満たしてくれるものなんだろうと勝手に自己解決した。ああ、そういえばまだ刑務所で死んだことはないな。そんなことをおまけに考えながら。


「その手足に俺も入っているのか?」
「当然だ」
「そうか」


オメガが拒否することはなかった。クロロもそれをわかっていた。しかし周囲の人間はその二人の短い会話を聞いて疑問を抱く。“オメガはこの事を知らなかったのか?”と。それもそのはず、クロロがオメガに一番打ち解けていたのは皆が知っていたことであり、オメガを一番理解しているのがクロロであったのも知っていた。ではオメガはクロロをどう思い、どう理解している?その質問の答えは誰も知らない。しかしそれでも二人が近い距離にいたことに変わりはないため、きっとクロロはこの事をオメガに話しているものだと思っていたのだ。

例外を上げるなら、大柄なアフロの男、ウボォーギン。この男だけは二人の会話に疑問を抱くこともなく「なに寝惚けたこと言ってんだ!」と笑いながらオメガの背中を叩いた。オメガは決して寝惚けているわけでもなく、本気でそう言ったのだがウボォーギンにはそれが伝わることはなかったし、ウボォーギンの性格故にオメガと分かり合うことはないだろうなとそれを見ながらクロロは思った。


「4?」


なんと不吉な数字だ。何度も死を繰り返しているオメガは眉間に皺が寄り、クロロはオメガの表情筋が動いたことにそれはそれは目を丸くして驚いた。こいつにも表情があったのか、なんて、他人が聞けばなんだそんな理由かと言うだろう。しかしクロロにとってはなんだそんな理由かと簡単に片付けられるほどのことでもないのだ。オメガと共に過ごして約七年、溜息を吐かれ呆れられたり嫌がられたりそういう態度は何度もされてきたが、それでもオメガの表情筋がわかりやすく動くことはなかった。それくらいオメガにとってどうでもいいということなんだろう。だからこそ、何かその“4”という数字に悪い意味で思い入れがあるのか気になった。訊いてもいいのか、訊いてはいけないことか、その反応を見るのが初めてだったクロロにはどちらが正解なのか判断しにくかった。

クロロは目を細め、口に弧を描く。オメガはそれを見て、何か良からぬ事か愉しい事を考えているんだろうなとベクトルが自分に向いたことに気付かず他人事のように思うだけだった。

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