わるいゆめをみた | ナノ


10 うごめくそれはぼくになる


オメガが気付いた頃には二人から十人に増えていた。いつの間に?一度そう首を傾げたが、増えていた途中経過さえ気付いていなかったので考えるのをやめた。

そういえばクロロが何年前かに、やりたいことがあると言っていた気がする。オメガも参加することになるんだろうからいくら無関心のお前でもこれくらい覚えとけ、と。オメガは素直に『わかった』と答えたはずだがそのやりたいことがなんなのか一向に思い出す気配はなかった。だからといってオメガはこの事に頭を抱えたりはしない。やっちまったなーくらいの軽い気持ちだ。
オメガは忘れてしまっているので知らないが、当時のクロロは具体的な内容は一切言わず『オレにはやりたいことがあるということを覚えとけ』と言っただけ。具体的な内容を言ったところでこいつは覚えておかないだろうとクロロは予想していた。実際、クロロの予想通り、覚えとけと言っていたことさえ曖昧ではあったものの、オメガは珍しく言われたことをしっかりと覚えていた。しかし自分の適当な性格故に忘れたと思い込んだのだった。


「オメガ、こんなところにいたのか」
「なんか用?」
「ん、特訓」
「ああ、もうそんな時間か」


パタン、オメガは手元にあった本を閉じた。何事にも無関心になってしまった頃のオメガは時間を潰すことが苦痛だった。何をすればいいのか、ただ刻々と死へ近付くのを待っているだけで、再び狂いそうになった。そんなとき、何回目の人生だったのかは忘れてしまったが、その産まれた世界では産まれた世界なりの、珍しい知識や能力があることを知った。ある人生では魔法が使えるようになり、ある人生では己の化身のようなモノが現れ、ある人生では忍術が扱えた。それはオメガの一回目の世界からは想像できない、ありえないことで、この繰り返される生死で見出された唯一の楽しみだった。どの世界も能力が異なり、多少似ていたとしても同じ原理で起こってなく、根本は全て違うという点がオメガを動かした。

しかしオメガはこの世界でそれを期待してはいなかった。なぜならこの流星街に学べるようなモノがあるとは思っていなかったからだ。捨てられるのは廃棄されたゴミばかり。知識を蓄えようとゴミを漁って本を探すが中々当たりは出ず、穴が開いていたりビリビリに破れていたり、ゴミの汁か何かを吸って真っ黒になっていたりと、読める代物を探すのは難しかった。勿論、面倒臭がりのオメガは何度も諦めようとした。しかしただ静かに時間を潰す苦痛を思い出せばやはり面倒臭くても探すほうがマシに思えた。それに、本の虫であるクロロが一緒に探してくれていたのも少なからず理由にあった。


「今日は?」
「水見式」
「じゃあ代わりになるもん探さないとな」
「それならパク達が今用意してくれてる」
「……誰?」


パクって、誰。オメガの口から出てきた言葉にクロロは大きく溜息を吐いた。こんなやつだとは知っていたけど、ほんとに、ああ、もう。オメガの頭は大丈夫なんだろうかと本気で心配になる。クロロはオメガが頭の良いやつで回転が早いことは知ってるが、違う意味で心配になったのだ。「いい加減覚えろよ」と軽く頭を叩けば、いつも通りの抑揚のない返事をされたが、クロロはこれで覚える気になっただろうと根拠もないのにそう思った。くどいようだが、クロロは知っている。オメガよりもオメガのことを。


「……操作系?」
「うん、めっちゃくるくる回ってる」
「………シャルと一緒、ね」


ああ、あの男の子はシャルと言うのか。オメガはシャルと呼ばれた子の名前を覚えるように心の中で復唱する。視線を元に戻すと、練はすでにやめているというのに余韻か、ゆっくりであるが未だにプラスチックはくるくると楽しそうに回っていた。そしてその横では珍しく厳しい顔のクロロが腕を組んでそれを見ていた。クロロも何か楽しんだろうか?オメガが見当違いのことを考えていようと「特質系だと思ってたのに間違いだったのか」とブツブツ呟いて、くるくる回るそれを見つめているだけだった。

ああ、あと半分。

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