わるいゆめをみた | ナノ


08 うすらわらいをするつきよ


男の名はオメガといい、少年の名はクロロといった。二人の生まれは同年代で、そして同時期に流星街で棄てられた。

オメガ曰く、クロロは整った顔立ちをしている。闇を連想させるような漆黒の髪と瞳。そのくるりと愛らしい瞳は今にもナニかを飲み込んでしまいそうだった。しかしその恐怖は普段襲ってこない。何故なら、彼はいつも甘い顔で人を騙し、気付けば懐に入ってしまっているからだった。もしその恐怖を体験することがあったのなら、それは大方、死ぬときだろう。クロロは人を殺すことに戸惑いがない。クロロという人間は躊躇うことを知らず、自然な笑顔で近付いて自分の目的と欲のためだけに人を殺すようなやつだ。

クロロ曰く、オメガは整った顔立ちをしている。深海のような底知れぬ深縹(こきはなだ)色の髪に、見つめてしまえば吸い込まれそうな瞳。濁りきったその瞳は恐怖の対象にもなり得るが、にこりともしないその表情と調和しており、ミステリアスな雰囲気は女が好むであろうそれだった。オメガは人を殺すことに戸惑いがない。それが生ききるためであるならと、まるでゴミ箱にゴミを捨てるかのように簡単に人を殺す。そして自身のことも同じように扱う。オメガという人間は他人は勿論、自身の事にさえ無頓着、無関心なやつだ。

お互いがお互いを全く似ていないと思っているが一つだけ共通しているなと思うのは、決して、死に急ぐことも生き急ぐこともないという点だった。


「クロロ、余計なことをするなっつっただろ」
「どうしてオレがお前の言うことを聞かなくちゃいけないんだよ」
「ややこしくなる」
「でも早く終わった」


そういう問題じゃないというのに「時間が掛かる面倒臭いことは嫌いだろ」とクロロの言葉が続き、変に干渉されるのも嫌いだと言うことを忘れているんじゃないかと言いたかったが、あのクロロが忘れてるとは思えないためオメガは意図的にかと小さく溜め息を吐いた。その溜め息の意味をクロロは理解している。『意図的になんて尚更タチが悪い。』オメガはそう思っているんだろう。だが結局言葉にも行動にも表さないのだからクロロは呆れる一方だった。しかしクロロもクロロでそれを指摘することはない。干渉されるのが嫌いだと知っているからこそ、絶対に立ち入ってはいけないとこはしっかりと弁えていた。


「そういえば最近オレ達の住処の近くを彷徨いてる奴らがいるんだ」
「ふーん」
「自分のことなのに相変わらず淡泊なことで」
「……別にいいだろ、」
「どうでもいいことだから、だろ?知ってるよ」


知ってる知ってる、オメガのことならお前よりもずっとオレのほうが知ってる。オメガは以前一度言われた言葉をふと思い出した。思い出すなんてことが珍しくて、あの時はなんて答えたんだったか、数秒考えてみたがどうでもよかったことだったのでやはり覚えていなかった。そもそも記憶を記憶することをとっくの昔に放棄したオメガが忘れることなくしっかりと鮮明に記憶しているのは十九回の死んだ様子と、ある事柄だけである。しかし考えは以前と変わっていないので『そうだろうな、俺もそう思う』と返したに違いない。


「で、何が言いたいんだ」
「気になるんだ?」
「違う、何かあるから言ってきたんだろうが」
「まぁね」


薄くだが笑っているはずのクロロのその表情は誰が見ても見惚れるだろうが、オメガからすれば見ていてあまりいい気分にはなれないものだった。

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