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あの名前が聞こえた瞬間、反応してしまった自分をばかだと思った。



05



怖かった。目の前にいるのがクロロ=ルシルフルだと分かった瞬間、恐怖で一瞬息をするのを忘れてしまった。
実際、この目で目の前に立っていた人物を見ていないから、本当にあの男がクロロだという保証はないが、男が口にした“シャル”はシャルナークのことだと思う。あの口調に、あの声、アニメで聞いた声と比べると多少若くも聞こえたが、それは時代を意味するのかもしれない。――ここが過去だという意味を。


「っう…っおぇ……」


泣きすぎたせいか、はたまた恐怖からなのか、吐き気が私を襲う。嗚咽するものの、昨晩から何も食べていなかったせいで吐くものはなにもなかった。嗚咽と一緒に再び涙が出そうになる。視界はぼやけてしまい、前が見れない。
どれくらい歩いたか、こちらの世界に来たときに唯一の私物である携帯は時間があっていないため無意味だった。裸足で歩いていたせいで足の裏がジンジンと痛む。見てしまえばさらに痛く感じそうで、怖くて見ることができなかった。
先程いた街から外れて、辺り一面何もないところへ出て来てきた。いや、ここで“何もない”と表現するのは少し変かもしれない。


「これって…」


目の前には無造作に詰まれたゴミ。詰まれすぎてそこにはいくつもの山ができている。
“流星街” その言葉が脳裏を過った。


「誰かいるのか?」


奥から低めの声が聞こえてきた。出てきたのは無精髭を生やした男。その男の面影に一切の記憶がないため、作中には出てきていない人物なんだろう。男は、ガキか、と呟き警戒する様子もなくこちらに近づいてきた。


「…見ない顔だな。こんなとこで何してる」


そういうと男は腕を組み私の前に立った。目の前に立たれて気づいたが、思っていたよりも背が高い。上から見下ろされてるような感覚がひどく怖かった。が、目を逸らすことができなかった、というより動けなかった。この世界で、初めて目にした人間は、私の見ていた紙一枚の薄っぺらい人間ではなく、血の通う人間だったからだ。
男はその私の反応を見て、じっと私を観察してきた。顎に手を添え何か考える動作をしたかと思えば静かに口を開く。


「捨てられた、か」


―――捨てられた?

男の一言で私の思考が止まる。誰が、誰に、“捨てられた”?それはあまりにも理解し難い一言だった。私は捨てられた記憶なんてない。――だけど、戻れる場所もここには、ない。
ぶわりと涙が溢れる。ああ、今日でどれだけの水分を無駄にしたんだろうか。見た目は違うが、中身は26のいい年した大人なんだから、いい加減泣くのはやめたい。やめたいのに自分の意志に従わない涙に腹が立った。
急に泣き出した私を見て男は核心をついたのか、やはりな、と言いたげな視線を突きつける。やめてくれ、そんな目で私を見ないで。そんなことを考えている私の言葉なんて伝わるはずもなく、男は一度溜息を吐き、再び口を開いた。


「ようこそ、流星街へ」


目の前の男はゴミが積まれた場所を指し、そう言った。


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