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路地裏で泣きじゃくる女を見つけた。下を向いているせいで顔は見えないが、グレーがかった髪が特徴的で、少し、興味が湧いた。



04



「大丈夫ですか?」


そう話し掛けた途端、先程まで泣きじゃくっていた女はびくりと肩を揺らし、静かになった。路地裏で話しかけられたことと、敬語というのがこの場に不釣り合いということに警戒しているのか。女は下を向いたまま、躊躇いがちに、ゆっくり話し出した。


「ちょ、っと、発作で…具合が悪くなっただけです」
「発作?じゃあ近くの病院にでも」
「平気です!」


病院に行くのに何かデメリットでもあるのか、そう思わせるような返事だった。先程の勢いとは反して弱々しくすみませんと言った女を改めて観察すると、靴を履いていない。それに、この寒い中軽装でいることがわかる。もし女が寒がりでないにしろ、靴くらいは“普通なら”履くはずだ。そして先程の反応。
…ああ、そういうことか。


「薬はさっき飲みました。だからここで安静にしていれば大丈夫だと思うので…ご心配していただいてありがとうございました」


女の声が震えているのがよくわかった。考え事をしている間、無言だったせいか、もしかしたら勘違いさせてしまったのかもしれない。このまま勘違いされるのも癪に障る。さて、どうしたものか。
顎に手を添え考えていると、ふと携帯が鳴った。


「どうかしたか?」
『どうかしたか?じゃないよ!急にいなくなっちゃってさー、今どこにいるの?』


不機嫌そうな相手の声が頭に響く。


「シャル、声がでかい。そんな大声で言わなくても聞こえる」


その、一瞬だけ。なぜかシャルの名前を出した途端に再び女の肩が揺れた。携帯が鳴ったときにも少し揺れたが、明らかにそれとは違う。動揺に近いようなものを感じた。
…蜘蛛を知っているのか?そんな疑問が頭を過ったが、可能性はほぼないはずだ。蜘蛛が結成されたのは2年前。活動はしているものの、まだそこまで名前は上がっていない。上がっていたとしても団員達の名前を知っているのはやはりおかしい。凝で女を見てみるが精孔は開いていない。こんなとこでこんな格好となると、ハンターというわけでもなさそうだ。


「あぁ、すまないがまた後で掛け直す」
「あ、あの…!」


電話を切った瞬間、女が話し掛けてきた。


「気分もだいぶよくなってきたので失礼させてもらいます」
「本当ですか?どうせなら家まで送りますよ」
「気に掛けていただけるのは嬉しいですが、私は大丈夫です」


女は立ちはしたものの、手を顔に当てていてあまり顔が見えない。少し青白い顔が見えたが女の顔立ちまではわからなかった。顔を見せないようにしているのか、そう捉えることもできたがこの様子だと具合が悪いのは嘘ではないだろう。念も知らない女が蜘蛛の害になるとも考え難い。


「そうですか。じゃあ、また」


見てはいないだろうが、俺はただ、にこりと笑って返事をした。


*


「シャル、みんなは今どこにいるんだ?」
『それはこっちの台詞。ほんとどこほっつき回ってんの?』
「面白い本がないか店に寄っててな」
『ふーん。ま、別にいいけど。俺らは今アジトに着いたとこ。クロロも早く来なよ』
「ああ、すぐにそっちに向かう」


アジトの方へ足を向け、歩き出す。ここからなら30分もすれば着くか。あくまで俺の予想だが、あの女は“捨てられた”ことを受け入れられないで逃げ出してきた、といったところか。女は早々にどこかへ行ってしまったが、行く宛てなんてあそこしかないだろうな。


―――流星街に隣接する街にいるんだから。


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