03
「最悪すぎる」
ここがHUNTER×HUNTERの世界だということが、だ。こういうのをトリップと言うのか。そんなの夢小説だけにしてくれ。なんて最悪すぎる旅行先だ。旅行なんて生ぬるい言葉で片付けれるものではないが、なんとか先程までごちゃごちゃしていた脳内は落ち着いてきた。危ない世界だとしても、ここがどこかわかっただけでも安心できる。
「にしても、どうしようか」
正直、知っている漫画、ではなく大好きな漫画、にトリップしたことは喜べた。ミーハーな気持ちで言ってるわけじゃなくて、ストーリー…この世界でいう未来というものを知っている最高のメリットがある。言うなればワイルドカードだ。これがもしONEPEACEの世界とかジョジョの世界に飛ばされてみろ。知ってても巻数が多すぎて把握できるレベルじゃない。…ファンからすれば可能ではあるんだろうけど、記憶力が乏しい私には無理だといっていい。
ただ、メリットがあれば必ず多少のデメリットも発生する。いや、今起こっていることはデメリットだらけに違いない。メリットが一つしかないというのにデメリット存在があまりにも大きすぎる。
この世界に私は“存在しない”もの。異端児というのもあながち間違っていないだろう。存在しないもの、というと流星街もそれに含まれるだろうが、私はその中でも異色の存在、この世界の人間ではない。
「う、わぁ…」
考えるだけで吐き気がする。この事実はあまりにも辛かった。今まで大切に育ててくれた両親も、今まで助けてくれてた友人も、この世界にはいないのだ。今なら面倒くさい早朝の出勤だって喜んで行く。
私はというと、しゃくりあげながら涙がぼろぼろと出していた。今の状況が可笑しくて、泣きながらも不意に口の端が上がる。
なんで私こんなとこに飛んじゃったんだろう、と。
―――生きたい、と。
ただ、それだけ。
「大丈夫ですか?」
頭上から声がして、びくりと肩が揺れた。
今私は、誰にも見られないように人通りが少ないであろう路地裏に入って座り込んでいた。それなのに、頭上から声がするのだ。それに付け加え、敬語。心優しい人がたまたま見掛けて声を掛けてくれたという可能性もあるが、この人の声はなぜかそれが不釣り合いな気がして、どこか違和感を感じた。顔を上げるのは怖かったのと泣きじゃくるこの顔を見られたくなかったので、下を向いたまま返事を返す。
「ちょ、っと、発作で…具合が悪くなっただけです」
「発作?じゃあ近くの病院にでも」
「へっいき、です!」
無駄に声が大きくなる。ハッとなって、すみませんとだけ言うと、男は無言になってしまった。気を悪くさせてしまっただろうか。冷や汗が頬を伝う。
発作なんて全くの嘘だ。ただ病院に行けば私の来歴がないこと、“存在しない”ことがばれてしまう。きっとそんなことになれば病院にいた人たちの視線が痛いことなんて目に見えている。そんなのこっちから願い下げだ。
「薬をさっき飲みました。だからここで安静にしていれば大丈夫だと思うので…ご心配していただいてありがとうございました」
自身の声が震えているのがわかった。
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