Optimist | ナノ

ナマエと初めて会ったその日以来、泣いた姿を見たことがなかった。



20



やることがないので昼寝でもしようかと、横になって5分が経った頃だった。外から忙しい音が聞こえてくるものだからナマエが帰ってきたのかと思った。
まあそれは正解だったわけだが、がちゃがちゃと金属音がぶつかるような音が聞こえ、寄り合いには行ってないのかという疑問がふと脳裏を過る。いつもはトレーニングだと言ってそのまま寄り合いに行ってから戻ってくるのに今日はそうではないようだ。

どうかしたのか、息が荒いことから走って戻ってきたのは容易に想像できたため少し不安に思う。このまま寝たふりでもしてたほうがいいのかもしれない。そう思ったのも束の間、ラウさん、と弱々しく俺を呼ぶナマエの声が聞こえた。それは俺を呼んだというより、俺の名前を呟いた、という言い方のほうが合っているのかもしれない。ああ、やっぱり何かあったのか。

ナマエは、ひっく、としゃくり上げた。…泣いてんのか?
それほど声を殺してまで俺の睡眠に対して考慮しているのかと馬鹿な勘違いをする俺でもない。きっと俺を起こしたくない理由があるんだろう。そんなの俺には関係ないが。


「…人が寝てるとこで泣くのはやめてくんねーか」


そう言った一瞬だけ、しん、と静かになるがすぐにまたひっく、とナマエのしゃくり上げ、鼻をすする音が聞こえてきた。俺は寝転んでいた体を起き上がらせてナマエのほうへ体を向ける。


「…で、何があったんだ」
「………」
「黙ってちゃわかんねーし、話したくないなら余所で泣け」
「………」
「聞こえたか?話すか、聞こえないとこで泣くか、だ」


泣いてる奴に対してこういう態度をとるのはどうかと思うが、こうでもしないとこいつは自分から話すきっかけを作れないと思った。まあ、これでこいつが余所に行って泣くことを選んだら俺の見当違いだったということだ。だけど俺の前でわざわざ俺の名前まで出して泣いてんだから、俺に何か言いたいことでもあったのかもしれねえ。
ナマエは話す気分になったのか、自分を落ち着かせるために深呼吸していた。


「…ラウさん」
「ん」
「…私ラウさんとの約束、破ってしまいました」


眉をハの字にさせてそう告げるナマエの瞳には、話すためにぐっと我慢したこぼれ落ちそうな涙が溜まっていた。俺は約束という単語に何かこいつと約束したかと思考を巡らせる。ふと思い出したのは立ち寄るなと言った場所のこと。ああ、あそこに行ってしまったのか、それなら泣いてる理由も説明がつくかもしれない。


「どうして破った?」
「…最初は普通に、鉄くずを探してただけで、どんどん奥にいってるのに気づいてなくて、ふと気づいたときには、ソレが」
「…見たのか」
「……ごめん、なさいっ」


何に対しての謝罪なのか、ナマエの溜まっていた涙がこぼれた。俺との約束を破ったことへの謝罪なのか、見てしまったことへの謝罪なのか。別に俺はそんなことで怒っていないし、約束を破ったからといってナマエをどう思うだとかそういう気持ちは一切なかった。

流星街では外の奴の死体が転がっていても平然と素通りするやつらが多く、ソレを怖いだのどうだの思って泣く奴なんて全くと言っていいほどいない。だからナマエも、俺がいくら言っても本人の意思が関係なくとも一度は見ることがあるだろうとは思っていた。


「…怖かったな」


そういって柄にもなくナマエを抱きしめ子供をあやす様に背中をぽんぽんと叩いてやれば、ぷつりと何かが切れたかのように先程まで聞こえなかった大きな泣き声が聞えてきた。

アレを見せたくなかったのは、あまりにも君がこの世界に不釣り合いな気がしたから。


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