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WT ここはHH世界ではないらしい

「生身でトリオン兵と戦うのはまず無理だと言っていい。だが君は平気でそれをやってのけたうえに、あの硬いモールモッドの足を破壊したとも報告されている」


じっとりと観察するように私を見つめる目がいくつもあり、内数名はあのとき出会ったツバ付き帽子の少年と同じようにオーラを纏っているため念能力者ではないにしろ何かしらの能力があるはずだ。これは下手に動くのはやめたほうがいいだろう。纏に見えるソレはこの中で一番偉そうな、司令と呼ばれていた男性のいうトリオンというものが関係しているのかもしれない。それにしてもあの白い生物はモールモッドっていうのか、ひとつ賢くなった。

さてはて、彼はここで一体どういう回答を私に望むのだろうか。この世界がどういう世界観で構成されているのかはわからないが、モールモッドと子どもたちが戦っていたのだから戦闘が避けられない世界であることは確かで、私は彼らの敵である勢力の仲間だと思われている。そうなると私が倒そうとしていたモールモッドが実は味方だということになるわけだけど。私からすればそれはありえないことだが、それを証明するものは何ひとつとして持っていない。彼らに私は異世界からきた人間だと言っても頭がおかしい女だと思われそうだし……。でももしここでこの世界だけで通じるような専門用語――トリオンのようなもの――が出されれば私は答えられないし、異世界の人物ですとしか言えないわけだ。でもなぁ、絶対この人、その用語を使って聞いてくる気がするんだよなぁ。


「単刀直入に訊くが、君は近界民(ネイバー)か?仮にそうではないのなら、なぜあの場にいて、どうやってあれを破壊した」


ほらね、やっぱりね。帽子被った少年も私のことをネイバーじゃないかって言ってたから、そうだと思ったんだよね。あーどうすればいいのかな。


「……まず、私は近界民じゃないです。あそこにいた理由は私にもわかりません。急に視界が暗転して、気づいたらあそこにいたので。で、破壊したことに関してですが、まぁ、あれを見て私が一般市民でないことは少年が十分理解しているかと思うんですが、なんて言えばいいのかな、普段は傭兵をやってます」


うーん、微妙。自分で考えた咄嗟の言い訳だが70点だな。普段は傭兵やってますって何。なんで突然職業アピールしちゃったの。どうやって破壊したって訊かれてるのになんで職業アピールしちゃったの。いやむしろこれから察しろよって感じでいいかな。ハンターって傭兵っていっても当たり障りないよね、教えてジンさん!!!脳内でそんな1人会議をやっていると司令さんの横にいるぽけっとした少年と目があった。なんというか、秘書というには緩い気がする。彼、何かどっきり能力持ってたりするのかなぁ。


「言っただろう、傭兵をやっていたにしてもトリオン兵を生身で倒すことはできない。 近界民でないのは信じよう。 だが、君は何者だ?場合によっては横流しされたトリガーを使ったことにより罰しなければならない」


あー、またよくわかんない単語が増えた。トリガーって、何。横流し?罰する?なるほどわからん。もうだめだな、これ以上専門用語が出てきても困るし、観念して伝えてしまおう。頭がおかしい女だと思われてもそれはそれでいい。トリガー?なんてものも私は持っていないし、好きなだけ持ち物をチェックすればいいよ。私が諦めたように大きく溜息を吐くと、司令さんの眉間に皺が寄った。


「正直に話しますが、生身で破壊したのは事実です。 これに嘘偽りはない。そしてこれから話すことも、すべて真実であるとこの命に掛けて誓いましょう。だからもしそれがあなた方からすればひどく信じがたい、ばからしい話であったとしても、どうか笑わず、聞いていただきたい」


まるで喜劇を語る道化師のように、私はにこりと笑った。


***

ボーダーの基地にいる時点ですでに不利だけどこれ以上不利にならないように必死に余裕あるように見せてる楽観主。だけど内心わりと焦ってるというか困惑してるしそれが菊地原には心音でなんとなくわかる。



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