Optimist | ナノ

身体が震えるような気がして、それを誤魔化すように俯きがちに拳を握った。なんとなく、視線を感じた気がしたから、ジンさんにはばれていたかもしれない。



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絶の状態であっという間に2人を外へ連れ出したジンさん。きっとあの2人は何が起こったのか理解できていないだろう。計画を聞いていた私でさえジンさんの動きを目で追うのが精一杯だ。突然2人が消えたことにより動揺した敵の能力者は辺りを確認するかのようにキョロキョロと視線を動かした。正直男の前に出ていきたくないが「誰かいるのか!?出てこい!!」と言われたら出ていくしかない。決して某黄色いネズミが出てくるアニメのノリで『誰かいるのか!?と聞かれたら、答えてあげるが世の情け!』とか言って出て行ったりはしないけど。


「……ッ!」
「あーあ……」


先手必勝と思い絶状態で一気に距離を詰めてから能力を発動したが寸でのところでバレてしまった。あと一秒気付くのが遅ければ、というか能力の発動をもう少し我慢しとけばよかったのか?自分でも反省する点はあるし、ジンさんが今の場面を見ていたら絶対いろんなこと言われるだろうが、時間は戻らないので終わったことを嘆いても仕方がない。後ろへ飛び、相手との間合いを取り直してから態勢を整えた。


「……能力者か」


ボソリと呟いた男は睨みながら殺気飛ばしてきたが今までジンさんから飛ばされていた殺気とは比べるほどではなく、冷静なまま男を観察することができた。ただ、純粋に殺すつもりの殺気を飛ばされるというのはこれが初めてで、今までやってきた終わりのある手合わせとは違う。そう思うと少しだけ、背筋にゾクリと寒気が走った。


「えーっと、念のため聞きますけど、クート盗賊団で合ってます?」
「……なるほど、同業者じゃなくて最初からオレらを狙ってたってことか」
「……」
「そっちはだんまりか。まぁ、そうだとして、どうするんだ?まさかオレ達に歯向かう気でも?」
「歯向かう……まぁ、そんなとこです、かね」


ゼロ距離、相手はまだ戦闘態勢に入っていない。と思ったのに、バチリ、男としっかり目が合った。――あ、やばい。何がかはわからないが、私の脳が危険だと警告してるように感じて、再び急いで相手との距離をとる。いつの間にか男は懐の刀を抜いており、その切れ味の良さそうな刃は私の首筋をかすめる程度で終わった。真っ先に首を狙うなんて、もし気づくのが一歩遅ければ、と血の気が引く。だがこのままびびってこの男に殺されるわけにもいかない。私は熱くなった傷口から伝う血を拭い、男を注意深く観察した。


「さっきから人のことじろじろと、今から向かっていきますって視線でもろわかりなんだよ」
「ご教授、ありがとうございます」


その言葉に男はぴくりと反応を見せ、私のことを睨みながら「ばかにしてんのか」と言った。あー、余計に怒らせてしまったのかもしれない。怒った人って何するかわかんないじゃん。だからぶっちゃけ戦いたくないよ。怒ってなくても戦いたくはないんだけどね。でも今ここから逃げれば絶対、負けるよりひどい罰があるに決まってる。だってあのジンさんだもん。普段何かあるごとに罰だと言って腕立てやら腹筋やら錬をやらせれているが、逃げた罰としてそれの倍以上の回数をこなせと言われてもおかしくはない。それを想像して背筋がゾッとした。そっちのほうが数百倍嫌というか、そうなるくらいならいっそ逃げずにここで死んだほうがましな気がする。まぁ、逃げ道はちょっと前に出て行った彼に塞がれてしまっているから逃げるという選択肢はないんですけどね。

じりじりと間合いを取って全く攻めてこない私に痺れを切らしたのか、男は動いた。男が刀を振り下ろすが、むなしく空を切る。大きな舌打ちが聞こえた。ジンさんと組手をするときは組手というだけあって一切の武器を使わない。というか、武器を使う相手なんてこれが初めてで相手とどれほどの距離を保つのがベストか見極めるのが難しい。刀のリーチがある分、確実に男のほうが有利である。


「その武器置いて、素手でやりません?」
「何寝ぼけたこと言ってやがる」
「……ですよねぇ」


こんな軽口を叩きながらやらねば、この空気が耐えられない。この男は私を本気で殺そうとしてる。本当はこんな状況ならへらへらせずに真面目にやるのが正解だろうが、こんな状況に今までなったことがない。だからこの状況を受け入れてしまえば恐怖で反応が鈍るだろう。あくまで男は、組手の相手だ。一度、瞬きをして男を見据える。


「さぁ、やりましょうか」


手も足も、今はもう震えてはいない。


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