Optimist | ナノ

仕事を手伝わせたいのか、それとも修行で鍛えさせたいのか、両方一遍にやるなんてことはしないで集中してどちらか一方にしてほしいと切に願う今日この頃である。



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「おいナマエ、あっちの記録は終わったか?」
「終わりましたよー」


これから俺とマンツーマンで修行だと言っていたわりにジンさんは自身の仕事をしょっちゅう、いや、毎日私に手伝わせていた。「これも修行の一環だ」「何事も経験だ」「知識の幅は広いほうがいい」など、本人は誤魔化すように言っていて、それも一理あるだろうと納得する部分もある。しかし私にはうまいように使われているとしか思えないのだ。


「じゃあ次ここな。俺奥のほう行ってくっから」
「了解でーす」


奥の通路へと消えていったジンさんを見届けて私は慣れた手付きで観察と記録を始めた。ジンさん曰く、ここの遺跡はかなり昔に作られたらしいが長い年月が経った今でもしっかりとトラップが発動するのには正直驚いた。ハンター試験で無線機を探すときに使われた遺跡は事前にハンター協会が手を加えていたみたいだし、だからこそいろんなトラップが発動してたんだろうと考えていたため尚更だ。

集中して凝をすると遺跡内の所々に薄らだがオーラが見えるときがある。それらの大抵がトラップで、たまに隠れ通路だっりするがジンさんは私が自力で見つけ出すようにあえて教えてくれない。隠れ通路はともかくトラップの場合注意しないとうっかり発動してしまうし、発動すればもれなくジンさんからのペナルティがおまけとして付いてくるので私は常に真剣に探していた。

ふと、何かが近づいてきているような気配がしてそれを避けるように振り向くと、ギリギリのところで私の真横をものすごい速さのそれが通過していった。それからすぐ、後ろから何かの音が聞こえる。……まさかトラップが発動した音じゃないよね?私は何も触っていないはずだし、飛んできた何かはいつも通りの、ジンさんからの攻撃で間違いはないはずだ。そうはわかっていても確認するために振り向くのが怖い。すごく怖い。こういう嫌な予感に限って大体当たるから余計に怖い。そんなことを一瞬の間に考えると、頭上からガゴンッと鈍く、嫌な音が響いた。


「…っ、ちょ、っと!?」


先程までは普通だったはずの天井が気付けば剣山のように変化しており、真っ逆さまに、天井が抜けて私へと落ちてくる。私は咄嗟に右腕で頭を守るように突き出した。


「何やってんだお前」
「………ジンさんのせいでしょうが!!」


私はそれを右腕だけで支えていた。
……これ、念能力使わなかったら確実に死んでたよね。間に合ったと言えば間に合ったが反応が少し遅れたせいで突き出した右腕に針がいくつも刺さりじんわりと血が滲んでいる。刺さったといっても浅いのでこれといった支障は出ないものの、物音を聞いて奥からひょっこり顔を出してきたジンさんに言いたいことは山のように積もり始めていた。そういえばこの剣山(といえばいいのか)、ところどころ黒くなっているあれはもしかして血だろうか。落ちてきているときはまともに見れなかったが“重力崩壊(リトルクラッシャー)”で剣山が軽くなっている今、落ち着いて観察してみると白骨化している何かがある気がする。確認したくないので気がするだけに留めておこう。よし。

そんなことより今私が確認しなければいけないのは事の発端である飛んできた何かと音がした何かだ。今更怖いと言っても手遅れなので気にせず振り向けば私が攻撃を受ける前に確認したばかりのトラップのスイッチ――バレにくくするためか壁と一体化するようカモフラージュされている――に小石がめり込んでいた。
ああ、やっぱりそうですよね。予想通りの状態に思わず脱力してしまった。ジンさんは私が何か記録してるときに限って突然背後に現れ攻撃してきたり、投げたら確実に凶器となるものを投げてきたりする。今回は後者のほうだったらしい。


「これ狙って投げましたよね、絶対」
「まぁな」
「まぁな。じゃないですよ!?なんでそうトラップ発動するとかややこしいことするんですか!」
「そりゃあお前が避けずに小石をキャッチしとけばよかっただけの話だろうが」
「キャッチしとけばって簡単に言いますけどあんな速くて威力のある小石は避けるだけで必死になりますって」
「ハッ。まだまだだな」


鼻 で 笑 わ れ た 。
いや、あのね、笑われなくったってまだまだなことは私自身よぉくわかってます。わかってるからこそそんな風に笑われるとすごく腹が立つわけですよ。思わず今持っている剣山の針をジンさんに投げつけたくなって、ふと思った。これは私がトラップを発動したわけではないけど私がトラップ発動したことになってるんだろうか。そんな私の心情を察してか、はたまたジンさんなら使えてもおかしくない読心術でも使ったのか、ジンさんは「トラップはちゃんと元の位置に戻して、それから腕立て千回と錬を三十分な」と言い残すと再び奥へと消えてしまった。


*


入り口付近か、遠くから何か音が聞こえた。今、円をしているのはジンさんなので何が入ってきたのかはわからないが、奥から戻ってきたジンさんの顔を見ればそれが何かは言われずともわかる。「相手はまだ俺達に気付いてない」。ニヤリと笑った顔は楽しそうで、どちらが悪人なのかと訊きたくなるほど悪い顔をしているように見える。
私はドキドキと悪い意味で高鳴る胸を深呼吸で落ち着かせながら絶をして、ジンさんの後ろをついていった。


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