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ジンさんと一緒にいる行為自体が何か問題を起こしてくださいと言っているようなものだと気付いたのは数ヶ月ほど前の話である。



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遠い記憶を含んで聳え(そびえ)立つ、眼前の煉瓦のように積まれている乾いた石。屋内の粉塵と熱気、それを包みこむ湿気を帯びた自然。長い長い歴史を纏ったそれは、過去の人々が一から己の肉体だけで積み上げ、完成させたのだ。そう考えると込み上げるものが色々あるが、一言、単純で明快な感想を述べるとすれば“すごい”なんて幼稚園児でも書ける作文以下の言葉が私にはしっくりと当てはまった。


「……ここ、前にジンさんが調べてたとこの一つですよね」
「おー、よく知ってんな」
「……やっぱり」


あんな大っぴらに資料を広げられていたんだから誰だって目に付くだろう。その誰だってというのにカイトも含まれているのだから居場所を突き止められるのはすぐなんじゃないだろうか。


「おいおい、睨んでんじゃねぇよ!カイトにすぐバレるんじゃないかって思ってるのか知らんがここ以外にも調べてただろ。そんなすぐに来やしねぇよ」
「でも時間の問題じゃないですか。ていうかカイトの勘が働いてここから調べ始めたらどうするんです」
「そんときはそんときで先回りして逃げればいいだけの話だろ」


なんで簡単なことのように言えるんだろうこの人、と疑問に思いたいが答えは簡単、この人がジンさんだからである。実際に原作でもそうやって逃げていたに違いないのでこのやり方は間違っていないんだと思う。……私がいることによってなんらかの問題が生じれば話は別だがジンさんのことだからそれさえも想定内なんだろう。鼻歌交じりに遺跡の中へ入っていくジンさんは逃げる側とは思わせないくらい軽い足取りである。その気楽さを少しでもいいから私に分けてもらいたいくらいだ。


「ここを一番最初に調べる意味ってなんかあったんですか?」
「んー、それがなぁ……」


ちらりと私に視線を投げてすぐに明後日の方向を見るジンさん。なんというか、遠回しに追求してこいと言われているようで嫌な予感しかしない。しかし訊かないことには先へと進まないためしょうがなく訊いてみることにした。「……何かあるんです?」。このときのジンさんのよくぞ訊いてくれましたというような顔といったら、やっぱり訊かないほうがよかったんだと後悔した。


「最近ここらの遺跡が盗賊に荒らされてんだよ」
「……はぁ」
「遺跡内の金目のもんが目当てなんだろうけどその盗賊ってのがクート盗賊団って言って――」
「ちょちょ、ちょっと待ってくださいよ。今なんて言いました?聞き間違いかと思うんですがまさかクート盗賊団とか言ってませんよね?」
「クート盗賊団で間違いねぇけど?」


はい、誰も喜ばないくっそ嬉しくないイベントきましたー。ジンさんがカイトから逃げている間に色々な偉業を残していくのは知ってた。知ってたけどさ、わざわざあと半年ちょいくらいしかいない私がいるときにやるのはやめてほしいんですが。しかもクート盗賊団なんて百パーセント戦闘じゃないですかーやだー。鏡見てないけど今私が死んだ魚の目になってるのがわかる。すごくわかる。カイトも結構無茶するけどジンさんより危険な目に遭うことはないのでできることなら今すぐカイトのところへ逃げたい。まあ、できないんですけどね!


「それって私は参加しないでいいんですかね。ていうかいいんですよね」
「寝惚けてんのか?盗賊の頭は俺がやってもいいけど他の奴らを倒すときにはナマエも混ざるに決まってんだろ」
「無理に決まってるじゃないですか!」
「最初から無理だって思うから無理なんじゃねぇの」
「最初から無理だってわかってるから言ってるんです!」
「そうは言っても次クート盗賊団が遺跡荒らしをするならここだから今更逃げれないぜ」


してやったりとほくそ笑むジンさんをビンタしてやろうかと思うのはこれが初めてではない。初めてではないが実際にビンタできたことはない。なぜならしようと実行に移っても簡単に避けられて掠りさえしないからだ。なのでいつも失敗に終わり、タンスの角で小指打って苦しめと願うばかりである。今回もそれを願おう。ここの遺跡にタンスなんてものはないので曲がり角とかそういうとこで器用に小指打って苦しめ。

私がそんなことを考えているとは知らないであろうジンさんは気に留めることもなく簡単にトラップを解除しながら奥へ奥へと進んで行く。こういうときのジンさんは頼りになるんだけどなぁ……。


「クート盗賊団が来たら返り討ちにするんですか?」
「返り討ちっつーか、アジトを突き止めて壊滅、だな」
「……アジトを探すつもりで?」
「いや、遺跡荒らしにきたところを懲らしめて逃げたやつを追う」


わかったな?と確認を取るジンさんに私はくぐもった言葉を返した。


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