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if ゾルディック家に落ちてたら

――どしんッ!と何かが落ちるような大きな音が聞こえた。その発信者は私なわけだが、発信した本人も何が起こってるのか理解できない状況である。

はて、私はさっきまで同僚にメールを打っていたはずじゃあ…?と手元にある携帯を見ると打ち途中の文章が表示されている。ああ、だよね、よかった私の頭がおかしいわけじゃなくて。にしても尻と腰が痛い。頬を抓まなくてもこの痛みのおかげでこれが夢じゃないとわかるが、そうなるとかなりやばい感じじゃないだろうか。周りを見渡すといかにも高そうなものばかりが置いてあって、これが誰かの家だということがわかった。ぎぃ、と古めかしい扉が軋むような音がして、咄嗟に近くにあった大きな骨董品のようなものに身を隠す。


「そこに隠れておるのは誰じゃ?」


その言葉に自然と体が反応し、肩がびくりと揺れる。先程の物音で気づいたのか、と思ったが声の主は私が隠れている場所まで言い当ててしまったのだ。声の感じといい、話し方といい、男性で老人だということはすぐにわかった。この家の主人なんだろうか。それならすぐに謝ったほうがいいのかもしれない。


「出てこないならこちらから行くぞ」
「あ、すみません!今出ます!」


痛む腰と尻を忘れ、急いで立ち上がり老人の前に行くと、驚きのあまり私は一瞬呼吸をするのを忘れる。

ゼノ…ゾルディック…?

謝ろうと考えていた私の思考は完全にストップしてしまい、何もかもが真っ白になった。最初に夢ではないと認識したが、やはりこれは夢なんじゃないか?真っ白な脳内にその考えだけがぽつんと浮き出た。だって、ありえない。ゼノさんって…漫画の世界の人じゃないの?ぽかん、とした私を見て怪訝そうな顔をするゼノさんは何かを考えてるかのように手を顎に添えた。


「お主、名は?」
「…ナマエです」
「どうやってここまで入り込んだんじゃ?」
「…わ、私もそれに関してはさっぱり」


そういうとゼノさんは小さく唸り、私に対する質問もやめた。ゼノさんは一見普通の老人で、念を纏っているようには見えない。ここでわかったのは念が見えないイコール私は念能力者じゃないというわけだ。だからこそ、容易にこのゾルディック家に入れた私が不思議でならないのかもしれない。いや、私だってどうやって次元を超えたのかなんてさっぱりだけど。そういえばこの世界での私の立ち位置はどうなるんだろうか。一般人…なわけがないか。この世界に来歴がない私は流星街の人と同じ?いや、それ以上に異端児かもしれない。

ぽろり、何故か涙がこぼれた。


「どうして泣いておる」
「……私にもわかりません。勝手に、涙が」
「ワシが怖いか?」
「いや、あなたは怖くないんです。私は……自分が怖い」


この世界の住民じゃないから。そうとは言えなかったが、そんな私を見てゼノさんは私に近付いて、手を伸ばした。一瞬体が硬直したが、大丈夫何もせんよと優しく話しかけてくれたゼノさんはぽんぽんと私の頭を撫でる。まるでおじいちゃんに宥められる孫のような図になっているが、その手が優しくてさらに涙が溢れた。暫くすると涙も落ち着いていき、すんすんと鼻をすする小さな音だけが響く。


「すみません、いい歳してこんな…」
「いい歳も何もお主はまだ見たところ十代じゃろう?子供がそんな風に気を使わんでよい」
「えっ」


私が素っ頓狂な声をあげて目を開閉させれば、ゼノさんは眉間に皺を寄せて、ん?と少し首を傾げた。

十代?今なんて言ったこの人?

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