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二時間五十分と答えてジンさんから溜息を吐かれてしまったのでそれから五分ずつ時間を縮めていった。今までの最高記録が二時間三十五分なのだが、そのときも首を横に振られてしまい思わず「うわぁ…」なんて嫌な声が小さく漏れた。これペナルティ決定じゃん。



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「ナマエなぁ……計られなかったら時間縮むなんて、本気で戦ってるときはそんな言い訳聞かねぇんだからな?」
「うっ……それくらい知ってますぅ…」


結果、今回は二時間十三分だった。前日の記録より縮むことなんてのはよくあることだが、それでも大抵が五分以内である。最高記録より二十二分も短いのだからそりゃあジンさんから溜息を吐かれても文句は言えまい。「最初から俺が計らなかったら二時間もいかないだろ、これ」とジンさんがぶつぶつ独り言のように話し、私はそれに頷くだけである。それを見ていたカイトからは「頷いてる場合じゃない」と後ろからパシッと軽く叩かれてしまった。

今回ジンさんがこんなことをやりだしたのにはちゃんとした理由があった。なんでも、以前に同じことをしたとき――あれは単に忘れられていただけだが――私が異常に疲れていたことを思い出したらしい。そのときは気にも留めていなかったが、今日ふと思い出し、なんであのときはあんなに時間が短かったのかと考えた結果、原因として浮かんだのがソレだった。思い出さなくてよかったのに。


「……言っとくが、三時間が目標じゃないんだぞ」
「最低でも、三時間はできるようになれ、でしょ?」
「わかってんじゃねーか」


じろりと睨むジンさんの視線がじくじくと刺さって痛い。


「でもこの三ヶ月で二時間も伸びたんですよ?いや、まあ、計ってもらったらの話ですけど、それでも私頑張ってると思いません?」
「ほーう、ナマエのくせに偉そうなこと言ってんじゃねぇか。その考えでいくともう三ヶ月…四ヶ月くらい頑張れば五時間は確実にできるようになるってことで間違ってねぇよな?」


あれ、私なんか墓穴掘った気がする。無意識に口元が引きつった。そういうことを言いたかったわけじゃない。わけじゃないんだよ、ジンさん。「ち、ちが…」と情けない声を出そうとすれば「あーあーあー」なんて大人気ない言動でジンさんが遮ってきて、私の言葉を一つも聞こうとしやしない。なんて横暴な師匠なんだ!と言いたくなってもそれさえジンさんの耳には届くことがないのだ。背後からはどちらになのか、それともどちらにもなのか、呆れていますと言わんばかりのカイトの溜息が聞こえた。


「ま、ナマエが五時間もできるとは期待してないが」
「師匠のくせに弟子を信じない、と」
「信じていいのか?」
「あっ…信じないままでお願いします」


頑張りますとか見ててくださいねとかそんな言葉は吐きません。私空気の読めるいい子チャンだからね!それでもジンさんは私がへにょりと簡単に折れてしまったのを見て苦笑いのような、微妙な顔で片眉を上げた。後ろに立っているカイトの顔は見えないがなんとなく予想はできる。


「五時間以上できるのに越したことはないが、今はとにかく目先の三時間が目標だ」
「……はい」
「そのためにも!俺は明日から途中経過をナマエに教えねぇから」
「………はい?」
「あ?言葉通りの意味だっての。でも安心しろよ、時間は計ってるから結果だけは教える」


安心できねえええ。明日から私は今日感じた気怠さをずっと感じることになるのか。そんなことを考えていたせいか、取れたはずの疲れがズーンとまた襲ってきた。今日の修行があと今から課せられるペナルティだけである。今日は堅よりも先にかくれんぼをしたためかくれんぼの分のペナルティはすでに終わらせていた。
かくれんぼと言えば、最初に比べると見つかる回数は両手に収まる程度と減ったものの、やはり少ないとは言える回数ではない。ジンさんもカイトも私の絶の精度は格段に上達していると言ってくれるが、ジンさんに見つかる回数は全くといっていいほど変動がないのだ。これって信じていいのかなぁ…と疑いたくなるし、見つかるたびに私の才能の無さに泣きたくもなる。


「……ジンさん、一ついいですか?」
「なんだ?」
「絶のことなんですけど、私ジンさんに見つかる回数が全然変わらないじゃないですか。良くなってるって本当になんですかね…」


こういうことはちゃんと聞いたほうがいい。ジンさんはよっぽどのことがない限り教えてくれないなんてことはないし。私がそう尋ねるとジンさんは右手で口元を隠すように添えた。教えていいものかどうか考えているらしいが、チラチラと気を引くようにわざとらしく見るその視線からそこまで重要なことではないと伺える。ならさっさと教えてくれよ、とは言わずただ黙ってジンさんを見つめた。


「ナマエの絶が上達してんのはホント。四大行も応用もそこそこだしな」
「いや、だから――」
「じゃあなんで見つかるのかっていうとな、お前のレベルに合わせて俺もお前を探してるからだよ」
「それってどういう、」
「本気で俺がお前探し始めたら今の回数なわけねぇだろ?けどカイトに今のお前を探させたら片手で足りる程度…二、三回ってとこかなぁ」


は?そんなこと言ったら私は一生ジンさんから逃げ切れないじゃん。いや、逃げ切れるとは思ってなかったけど。でもカイトのが本当ならそれは素直に嬉しいので喜んどこ……。てのはとりあえず置いといて、まあ、なんだ、つまり私はこの修行を続ける間、ペナルティの回数はほぼ変動なしってこと…ですよね。私が頑張れば結果は変わる、かも、しれないけどジンさんの気分でそれも意味がなくなるわけだ。


「……それ、レベル上げていく必要あります?」
「そうしないとナマエの筋トレ回数が減んだろーが」


絶の精度を上げるためっていうより、絶対そっちが目的じゃないですか。「目指せ回数減少!」なんて言葉を掲げるジンさんだが、ゼロにさせるつもりはないらしい。


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