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あれよあれよとやっているうちに今年最後の月になっていた。相変わらず忙しい毎日だからか、ゾルディック家に行ったあの日の記憶は懐かしいものに感じる。そして例に漏れず、今日も私は忙しい。



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通常の、健康そうな呼吸音はとは違い、ぜひゅー、となんともお粗末な息が私の口から出てきた。あれから何分経ったんだろうか。堅を始めて二時間が経つと、今まで経過時間を教えてくれていたはずのジンさんは面倒臭くなったのか黙ってしまった。うう、時間を教えてもらえないってのは結構きつい。今はやれるとこまでやってぶっ倒れるのが私の使命みたいなものだからはっきり言って時間は関係ないが、あと何分頑張れば記録更新する…!とそういうモチベーションを保つためにも私はあったほうが楽なのだ。それのせいなのかはわからないが異常に体内時間が長く感じて、もう三時間は堅を続けているような疲れが身体にある。まぁ私、三時間も続けられたことないからまずありえないんだけど。


「……いつもより疲れが出てんなぁ」


漸くジンさんが口を開いてくれたかと思えばニヤニヤとした顔にこの台詞である。どうやら面倒臭くなって数えるのをやめたのではなくわざとやめたらしい。そういえば前にも一度だけジンさんが数えなかったことがあったなぁ。大分前の話だけど、あのときはジンさんがどこかにふらりと行ったまま戻ってこなかった。それがわざとじゃなくて本気で忘れられていたのだからあのときの私に体力が残っていれば確実に怒っていた。


*


……と、そんな過去の悲しい記憶を思い出していたはずなのに、気付けばそれ以降の記憶がプツリと消えていて、気絶したんだと理解したのは目を覚ましてからである。今回どれくらいできたのか全く検討がつかない。ジンさんに聞かなくては、と私から少し離れたところで組み手をしているジンさんとカイトを見つめた。そんなに長くならないだろうから終わるまで待っていよう。観戦体勢に入ろうとして身体を動かすと、服の隙間から風が通っていく。十二月にしてはあまり寒くないが、それでも時期が時期なため冷たくなってしまった汗が身体を震わせる。風邪引かないように気をつけないと、と考えながら気持ち程度にもならないが、これ以上冷えないことを願って腕を擦った。

私はカイトを人間だと思っていない。そしてそれ以上にジンさんは人間じゃない。なんであの体勢から攻撃に移れるんだ?常にあの二人のレベルが高い組み手を見ているからか、素早い動きも目で追えるようになっていた。カイト曰く、私がジンさんとやっているときも結構早いらしく、当然それには自分の耳を疑ったし、カイトの目も疑った。ジンさんがそうだと肯定したからそうなんだろうが、三日くらいは疑い続けた。

ジンさんとカイトの組み手を目で追えているのだから、ジンさんの攻撃も目で追えるんじゃないかと思う。のだが、実際そんななまっちょろいわけがない。見ている側とやっている側では心の落ち着き方が違うためジンさんがカイトとやるときの早さで私に攻撃を仕掛けてきたら絶対に避け切れない自信があった。……こんなことで自信を持つなと言われそうだが。
それでもいつかは避けられるようになれと言われたけど、カイトでさえその攻撃を掠るか、すれすれで避けても次の攻撃で喰らったりするんだから、やっぱり一生避け切れないと思います。

そして今もカイトはその攻撃を避けて反撃したりとジンさんから攻撃を喰らわないように必死だ。余裕の笑みを見せつけるジンさんの攻撃を眉間に皺を寄せながら対抗するカイト……頑張れ。と、応援してあげたのにそのすぐ後に決着がついてしまった。あ、今のはオーラの配分ミスだ。カイト後ろに飛ばされてやんの。プークス。


「……い、ってぇ」
「カイトお前今のじゃ守りきれねぇだろ」
「あー…はい、今のはちょっと焦りました」
「俺の攻撃がか?それとも次の攻撃に早く移ろうとして流を急ぎすぎたのがか?」
「……最初は後者で、喰らった瞬間が…前者ですね」


つまりどっちもじゃねーか。と心の中だけで突っ込んでいるとジンさんが同じようなことを口に出していた。そしてその言葉に続けて何点かカイトにアドバイスをするとくるりと踵を返してジンさんがこちらへ向かってくる。なんであんなに疲れてるカイトと比べてこの人は疲れのつの字も見えないんだろう。そんなことを考えているといつの間にかジンさんはすぐ目の前に立っていた。


「ナマエ」
「……はい」
「お前今回の堅の時間、自分じゃどれくらいだと思う?」


聞かれるのは初めてだった。今までちゃんとジンさんが時間を教えてくれていたからこれが初めてというのは当たり前と言えば当たり前なのだが、今まで教えてもらうのが普通になっていたため少し戸惑ってしまう。え、もしかしてかなりいい線いったとかそんな感じだろうか。ジンさんの表情を読んでどれくらいだったのかを予想してみようと思ったが、駄目だこの人全く読めない。そもそもジンさんの表情読むとかそんな高度な技術を私持ち合わせてない。仕方がないのでジンさんの表情を読むのは諦めて、いい線をいったのかもしれないという自分の直感を信じることにした。


「二時間………五十分ですかね!」


………あっ…溜息吐かれた。


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