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自分の念能力に振り回されてちゃ、意味がない。



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「あ、でもそれだと私や一般人にちゃんと能力が有効だったのはどう説明するんですか」
「一般人の場合根本的な念に対抗するっていう術がない。いくら力が強かろうとそれはどうしようもねーことだ。ナマエはその能力の本人だからってだけだろ。本人なんだからその軽重が変われば身体の感覚でなんとなくわかるはずだし、そもそも能力が百パーセント発揮されてもおかしくない」
「はあ…」


私の能力のはずなのにここまでしっかりと指摘できるジンさんに呆けた返事しか返せない。そのせいか、ちゃんと理解しているのかと言いたげな視線が私を刺していた。ちゃ、ちゃんと理解してますよ、私!ただちょっと感心していただけで!


「えーっと、じゃあ改善ポイントをまとめると、能力としては“重力崩壊(リトルクラッシャー)”の有効範囲をもっと狭めて、さらに制限時間を設ける。私自身としては、イメージ力をしっかりとつける。ってことでいいんですかね」
「まあそんなとこだな」
「でもジンさん、能力の改善はなんとかなるとしても重さのイメージってのは実際体感してみないとわからないものでしょ?ジンさん達相手でも通用する重さってなると私が持てるわけないじゃないですか」


そもそもそんな重さのものがそこらにホイホイと転がっているわけでもないだろうに。身体は鍛えているが、腕力が上がったとかそういうのは正直感じない。私の周りがジンさんとカイトだから気付いてないだけで実はすごい力持ちになってしまっていたりするかも知れないけど…それはすごく嫌だな。

ジンさん達相手でも通用する重さとは言ったが、持てる重さと自身に掛かる重力は別物のような気もする私がいる。例えばジンさんが百キロのものを持てるとして(実際持てるだろうが)、だからと言って急に百キロの重力がジンさんに掛かっても平常でいられるとは限らない。普段慣れ親しんでいない重さが何も持っていないはずなのに自分の身体に纏わりつくように圧し掛かるのだからそれで動こうと思えばかなりきついものがあるだろう。

とは言っても、常識外れの底知れないジンさんが百キロ程度の重力を掛けられたとして動けないとは思えない。これは欲目というものになるのか、実際にジンさんに念能力を仕掛けたことがないから真相は定かではないが、欲目じゃなくとも普段のジンさんを見れば誰しもがそう思うに違いない。


「……まぁ、重さを知るってのも大事だけど、お前が思ってるほど能力の改善はなんとかなるようなもんじゃないと思うぞ」
「どういうことですか?」
「一度決めた能力をホイホイ変更できてたら誰だって苦労しねぇってこった。その能力を変更する点をしっかり意識して訓練を積む必要がある」
「……それって大体どれくらい掛かります?」
「さぁな?そりゃ人それぞれ違うだろうが、お前の場合は今年中に“重力崩壊(リトルクラッシャー)”を使いこなせるようになんねぇと、あと一つ念能力が残ってんだろ?」
「あ、っはい」


ジンさんの言葉に思わず返事をしてすぐに違和感を感じた。私“理に背く者(フリーフォール)”のことジンさんに言ったっけ?いや、念に関して話す機会は全くなかったのだからそれはありえない。それにこの密林に入ったときから私が使った能力は一つだけだったはず。ジンさんが私のことを監視していたとしても二つ目の能力を知っているわけがない。

“理に背く者(フリーフォール)”は使えばたしかに便利だと思う。木登りをしようと思えば簡単にできるし、あのイノシシもどきの生物が襲ってきても能力を発動すれば違う方向に落ちていってくれる。なのに私がハンター試験以降一回も使っていなかったのは単に怖かったからだ。あれは結構チート臭いが即席で作ったような能力なので不十分なのは私が一番理解している。二次試験のときはカイトに不安な思いさせないようにといつも通りを演じていたが実は落ちてる最中とか何かあったらどうしようと気が気じゃなかった。だからこれは鍛える必要があるなと思っていたわけだが、如何せん鍛える時間どころか考える時間もなかったのがこの数ヶ月である。


「………カイトが私の能力のことジンさんにバラしたわけ?」
「は!?あ、いや、バラしたっていうか」
「カイトには俺がお願いして試験の話を事細かに話してもらったんだよ」


なー?と語尾にハートでも付いてるんじゃないだろうかと言いたくなるような同意の言葉をカイトに投げかけるジンさん。わざわざ嘘をついてまでカイトを庇うような人じゃないので本当にそうなんだろう。しかし嘘じゃなくてもジンさんが誰かを擁護することがあるなんて、明日は槍が降るんじゃないかと心配になった。


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