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青痣とさよならできる日は果たしてくるのか。



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今日の組み手はカイトとだ。いつもなら私の相手はジンさんだがこうやってカイトが相手をしてくれるのは別に珍しいことではない。一応あれでもジンさんはハンターなので(私達もハンターではあるが)、仕事で呼び出されたり遺跡ハンターらしく遺跡調査をしに足を運んだりして度々ここを空けていた。だから必然的に私はカイトと組み手をすることになるのだ。

私がここにきて片手で数える程度だが、ジンさんが一週間以上ここを空けることになるときは私もその遺跡調査へ連れていかされた。遺跡はハンター試験での嫌な思い出があるのであまり、というかかなり行きたくないが私に拒否権などなく、引きずられながら連れて行かれるのがいつものオチだった。

話が逸れたが、私の今日の組み手相手はカイトで、ジンさんには悪いが私はカイトとの組み手のほうが好きである。ジンさんに比べると組み手の動き自体はあまり変わらないが、打ってくる技の一つ一つに手加減してくれているのが見えるし、実際にジンさんとするときよりも打撲痕が少なくすんでいるのはそのおかげと言えるだろう。


「……なんか余計な事考えてないか?」
「えー?そんなことないよ?」


右から繰り出された拳を少し仰け反りながら交わす。組み手中こんな風に会話できるくらい上達できるとは思ってもいなかったが、カイトだからできるわけであってジンさん相手にできるわけがない。いつかできるようになりたいものだ。


「余裕そう、だなっ!」
「へぁっ!?」


避けきったと思っていたのに、いや、確かに拳を私は避けきったし、ソレは宙を切った。しかしその拳は出されたほうとは反対側の私の肩を掴むと、ひっくり返すようにして地面へと俯きに倒された。突然のことに変な声は出るし、俯きにされてその上を押さえるようにカイトが乗っているしで自分の間抜けさに呆れてものも言えない状態である。


「……絶対余計な事考えてただろ」


はあ、と溢された溜息は言わずもがなカイトのもので、きっとカイトの位置から丸見えになっているであろう後頭部をぺちりと叩かれた。「はい、考えてました」とあっさり白状すれば、どっかりと私の上に乗っかっていたカイトは二回目の溜息を溢してからすぐに退いてくれた。


「ナマエ、お前ジンさんと俺だとかなり違うよな」
「真面目にはやってるよ?」
「そういう意味じゃなくて」
「んー、まぁ、そうだね」


カイトは優しいから、つい甘えてしまう。カイトが言う“かなり違う”ってのは組み手は真面目にやっているものの緊張感が足りていない、否、足りなさすぎだということだろう。そらそうだ。ジンさんのときにこんな態度で組み手をしてみろ、腹にクレーターを作ってくださいと言っているようなものである。


「……開き直ってないよな?」
「………どうでしょうね?」

きっと思っていたことが顔に出てたんだろう。にっこりと笑ってそう言ってやれば三度目の溜息をいただいた。カイトは私のことでよく溜息を吐いてるような気がする。これで私のせいで幸せが逃げたと言われたらたまったもんじゃない。福よ来いという意味を込めてカイトを拝もうとすると先程の叩きつけられた肩がじくりと痛んだ。あー、これは痣確定だな。逆に私の幸せが逃げてしまったようだった。


「肩痛むか」
「ちょっとね」
「脱臼したときよりマシだろ」
「まぁねー」


私はカイトと比べる対象をジンさんに限定している。そうでなければやってられない。もしこの対象をジンさんから一般人に変えてみろ、優しいなんて当てはまるわけない。以前カイトに脱臼させられたことがあり、あれは本当に痛かった。そして嫌だと口でしか抵抗できない私は結局力技で治されたわけだがそのとき嬉々とその部位を治そうとしたジンさんは一生のトラウマだ。出来ることならもう二度と体験したくないが、悲しいことに私はこの一週間後また脱臼してしまうことなど知る由も無いのである。


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