Optimist | ナノ

わかりやすいほど鈍い音が耳に届いて、あれはもろに入ったな、とつい横目で二人の姿を確認してしまった。



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「っう、あ」
「あ、やべ。ナマエ息できるか?」


涙目で鳩尾を押さえるナマエは息が出来ないのか、まるで喉に何かが詰まっているかのように息を吐き出そうとしていた。ジンさんはやっちまったと反省の見えない顔で蹲っているナマエに近づき背中をさすっている。一応ナマエの身体は強くなったはずなのだがそれでもああなってしまうなんてジンさんはどれだけ強く殴ったのか、想像すると自分も気持ち悪くなりそうな気がして想像するのをやめた。


「ほら、ゆっくり息しろ。あと丸まってたら息しにくいぞ」
「はっ、はあっ」
「そうそう落ち着け、ついでに纏も乱れてる」


ここで纏が乱れてるなんて言うジンさんは鬼だな。あくまで心の中でそう思いながら遠目で二人の様子を見守る。もしここで俺が出ていって救いの手を差し伸べればナマエは多少助かるかもしれないが何サボってんだとジンさんからペナルティをもらうのは俺なのでナマエには悪いが傍観に徹させてもらう。…悪く思うなよ。


「はぁー…はぁ…」
「よし、落ち着いたな」
「……なんとか。ただちょっと、気持ち悪いです」
「鳩尾だからしょうがないな。まあそんな睨むなよ。お前さっき練で防御しようとしただろ?その分のペナルティをチャラにしてやるから」


そう言われるとナマエは間一文字に口を結んで黙ってしまった。いいのか、それで。しかし今かくれんぼで散々筋トレをやらされてるからナマエからすれば少しでも数は減らしたいのかもしれない。ナマエが組み手で思わず念を使ってしまいそうになるのは組み手を散々やって落ち着いてきていたはずだったが最近念修行に入ったせいか、また思わず念を使いそうになってしまうこと多くなってきていた。


「……念修行に入ったんだから多少念を使ってもいいんじゃないですか?」
「念を使った組み手もそのうち追々やるって言ってんだろ。とにかく今は基礎。何事も基礎が大事っつーだろうが」


元気になったんなら再開するぞと、まだ少し顔色の悪いナマエに容赦なく襲い掛かるジンさんはさすがだと思ったし、俺には真似できないとも思った。そしてナマエが簡単にいなされ地面に倒れるとジンさんはくるりとこちらをみて「お前もさっさと修行に集中しろ。腕立て二千回」と言うのだから、この人は後頭部にも目があるに違いない。


*


休憩時間中、自身の念能力“発”について考えているがこれといってハッキリとしたビジョンが浮かばないまま毎日時間だけが過ぎていっていた。ジンさんは焦らなくてもいいからしっかりとイメージを固めてそれから具現化すればいいと言うが、正直焦るなと言われてはいそうですねと頷いていられない。ナマエがすでに発を作っていることも焦る要因の一つだろう。
ナマエの能力は一度だけ体験、いや、ここに来たときにやられたアレを数えれば二度体験したものの、詳しいことはよくわからない。二次試験で大事な部分は説明してもらったがあの重力の方向を変えるものは咄嗟に作ったものだと言っていたから本来は別の能力があるに違いない。あれは操作か、特質か、どちらかの系統だろうから俺の能力開発に参考にはならないかもしれないが、どういう経緯で作ったのかは気になっていた。


「いい案は浮かんだか?」


上からナマエの修行を見ていたはずのジンさんの声が振ってきて、どうしてかと驚いてナマエのほうを見てみれば丁度さっきペナルティの腕立てを開始したところようだった。まだ腕立てに勢いと元気がある。


「いや、まだ何を元に具現化するかも決まってないです」
「だろうなと思ったけど、その様子じゃ全然掠りもしてねぇな」
「……まあ、はい」
「あと二、三週間したらナマエの念能力について話してもらうつもりだからそれでもまだカイトの能力が決まってないようなら一緒に聞けばいい」
「ナマエの念能力、ですか?」
「おー、あいつの念見てる限りじゃ不十分な点が多そうだからな。そういうとこ改善するためにもナマエからどういう風に作ったとかどんな制約と誓約なのか聞くつもり」
「俺も聞いていいのかって話よりもまずナマエが自分の念能力を教えてくれるかですよね」
「ま、なんとかなるだろ」


そんな軽くというかあんたなら絶対教えないくせにと言いそうになったのを飲み込んで、ただ呆れた視線を送るしかなかった。


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