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やはり今日は褒め言葉のバーゲンセールで間違いないようでした。



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どこに行ってたのかしらないがあれから本当に三十分もしない間に帰ってきたジンさんは疲れた様子もなく私とのかくれんぼに精を出していた。むしろこの状況で疲れているのは私である。気付かれないよう気配を消すことに神経を使ってドッと精神的疲れがひどい。この森の生物に遭遇してさらに疲れを増やさないために私はオーラで強化されてない脚で木の上を走ったり飛んだりしているが以前の私ならできないような芸当ができているのは偏に修行の賜物だろう。


「そういえばお前念のことは全部わかってんだっけ?」
「一応全部、わかってるん、っですけど、応用のほう、は、ちょっと、あやふやかも、っです」
「おーそうか。ちなみにお前が午後一発目にした練だけど、正しくは“堅”だ。練の応用で練を維持することだが、これは防御なんかに向いてる。あと“流”ってのがあるがそれはまた追々だな」
「っわかり、ました」


だから腹筋中に話しかけないでくれ!!!と言いたいが言えない。今余計に話すのは命取りだ。昨日のかくれんぼよりも回数が多かったようで、ジンさんから見つかった回数を聞いたときは血の気が引く音が聞こえた気がした。容赦ないジンさんは何回かに分けてやってもいいというわけがなく、すべて一回で終わらせろというのだからそろそろ私は自分のお墓を用意しておくべきだと思う。カイトにも手伝ってもらおう。

私が無駄に口を利く気がないのを察してか、ある程度私の体力や脚力がついてきたら組み手に関しては変更しないが午前中も念の修行に充てること(体力や脚力はどちらも及第点と言われたがまだまだらしい)、堅は今やっているし円も問題ないようだから残り五つの応用技も覚えるならしっかりやらせること、とかなりざっくりだがジンさんは独り言のように今後のことや念の応用について話してくれた。


「絶の状態がこれじゃあナマエの“隠”と“硬”はあんま期待できねぇな。ま、できるようにさせるけど」


不穏な言葉が聞こえてきたような気がしたが無視だ。私何も聞こえてないよ。黙々と腹筋を続ける私の口から漏れるのは吐いた息だけである。


「“凝”もいまいちそうだが“周”とこの二つはなんとかなるだろ。あとナマエはオーラコントロールがうまいほうだから“流”は案外できるかもしれねぇな」


予想もしていなかった言葉がジンさんから聞こえ思わず動きを止めそうになる。というか一瞬だけ止まってしまったがすぐに再開したのでセーフだ。カイトもそうだったがジンさんからも言われるとは考えてもおらず同じ日に言われるとかタイミングが神すぎてお前らグルなんじゃないかと疑いたくなる。驚いたように視線だけジンさんに向けているとそれに気付いたジンさんはニヤリと笑った。


「褒めると伸びるタイプだったら助かるんだけどな」


*


口数が多い順で並べるならジンさん、私、カイトだ。この三人の中だとカイトが一番口数が少ない。しかし食事中になるとこれがジンさん、カイト、私、といった感じで後ろ二人が逆転する。


「ナマエ、堅で疲れてたからってかくれんぼのとき気抜いてたんじゃねぇか?」
「でも堅のあとに休憩入れてたから疲れてたわけじゃないでしょ」
「あー、カイトの言う通りだな。じゃあ手抜いてたってことか」
「……気も手も抜いてないです」


はあ、と大きく溜息を吐いた。晩御飯は大体私の反省会のようなものになることが多い。しかしそれが理由で私の口数が減っているわけじゃない。修行で酷使された身体を動かすのが億劫だったり体内に無理矢理料理を入れているため話しすぎてうっかりリバース、なんて黒歴史になるようなことは避けたいからだ。最初の頃なんて一言も話せないどころか一口でさえも料理を口にできなかった。


「じゃあどうしたんだ?」
「……別に昨日と同じようにしましたよ私」
「ふーん…あ、じゃあこうしよう」
「………なんですか」
「俺に見つかる回数が前日より多かったらペナルティ」
「見つかる時点でペナルティがあるのにそれやったらナマエ死ぬんじゃないですか」
「…右に同じ」
「でもそうしないと気合入んねぇだろ」


カイトの助け舟もあっという間に沈んでしまった。明日沈むのは我が身であると私はコップに注がれた水で料理と一緒に不安も一緒に流し込んだ。


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