Optimist | ナノ

もうすぐ腕立てが2500回へと突入するところだが、終わる道のりはまだ長い。さすがに体力と筋肉がついたからといってぶっ続けで腕立てを何千回もやらされるのは三途の川を思わず見てしまいそうになるくらいぶっ飛んだことだ。



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「……おわっ、た」


私の人生まで終わりそうな気がする。疲労と脱水症状で。それを眺めていたジンさんはお疲れと言ってタオルを投げてくれたし、その少し後には一度小屋に戻ったカイトが水を持ってきてくれた。こういうとこはいいんだけどなんで普段に反映されないかなぁ、と水を飲みながら私はただただありえない可能性を思うだけだった。


「本当なら余った時間で練をやってみせようかと思ったんだけど無理だな」
「っこれ、で、練とかやったら、私死に、ますよ」
「だってお前俺の予想以上に見つかるんだもん」


呼吸を整えながら反応すると、いい年した大人のくせに語尾が可愛い返事を返してきた。何が“だもん”だ。あなたが使うと可愛いと思うどころか恐ろしいです師匠。あと遠回しに絶くっそ下手すぎて見つけやすいんだわお前ってディスられてる感がひしひしと伝わってくるのでやめてください。逃げ足は速いが絶が下手な私はジンさんに見つかったらアウトというルールの時点でどうしようもない。これが捕まったらアウトだとまだ逃げる分時間が延びる――相手はジンさんなのでほぼ変わるわけではないが――というのに。


「ペナルティ受けたくないなら頑張って絶の精度を上げるべきだな。あと、俺に見つからないように俺がお前を見つける前に俺の気配を察しろ」
「…気配、っ消すよりそれ、難しくないですか?」
「消すのも察するのも変わんねぇだろ。円で探そうとすれば念能力者相手だとそいつが円の中に入った時点で気付く…あー、ナマエみたいに気配に鈍い奴は別だが、とりあえず絶状態の相手を見つけられるくらいにはなれ」
「……誰かの円の中に、入ったらわかるようにもなれ、って言います?」
「当たり前だろ」


今年中にはできるようになれと言うのはなかなか難しい話じゃないだろうか。しかしこの数ヶ月でジンさんが制限をつけてくるのは始めてのことだったから、ジンさんが私の修行を見ていられる時間にも関係してくるんだろうと勝手に自己完結した。時間は無制限じゃない。カイトには最終試験がまだ残っているし、私にはラウさんを助け出して流星街の人達を説得しなくてはいけないんだから。


「この様子じゃ結構厳しそうだから明日からの修行内容変えるわ」
「……了解です。具体的にジンさんの頭の中で決まってますか?」
「おう、どうせ午前中に筋トレやんなくても午後に嫌なほどやれるだろうから午前は走り込みと組み手に変更する。ついでだから走り込みを一時間から二時間に増やす。…嫌な顔しても変更しねぇからな、お前今余裕あるだろ。そんで午後一発目は練な。今頑張ってどんくらいできる?」
「………三十分程度」
「まぁナマエにしては上出来っちゃあ上出来だが戦闘したりすれば体力も消耗するからそれより短くなるだろうな。最終的にはせめて三時間くらいは出来るようにしたいから死ぬ気でやれよ。で、それ終わったら今日と同じように俺とかくれんぼ」


わかったか?と確認をとってくるジンさんに正直頷きたくない。まずついでだから走り込みを一時間増やすってどういうことなの。たしかに今すごい余裕あるけどジンさんが後ろから追いかけてくる恐怖は今も昔も変わらない。その恐怖故に私の足は速くなっているんだじゃいかと思うくらいだ。そして練を三時間とか馬鹿じゃないの…私半年かけて三十分まで伸ばしたってのに。たしかにあの頃は余った時間を念修行に当てて、って感じだったから練は本格的にやってたわけじゃないけどそれでも残りの期間で三時間って無理じゃないかな…。

私の思っていることが顔に出ていたのか、ジンさんはもう一度「死ぬ気でやれよ」と念を押すように言った。

死ぬ気でやれよっていうか、死にます。まじで。


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