Optimist | ナノ

体力も筋肉もつくのは嬉しいが、体重が増えるのだけはお断りである。



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カイトも部屋から出てしまい暇になった私は言われた通りマッサージとストレッチをすることにした。三十分とはいえ寝起きのせいか筋肉が固まっているのを感じて、背筋を伸ばすように両腕を上げると、なんとも気の抜けるような声が自然と出る。これジンさんに聞かれてたら『気ぃ抜きすぎ』なんて言われるんだろうなあ。私は伸ばした身体をそのまま横へと倒した。


*


「……ナマエ、何やってんだ?」


ベッドで上体を起こしたまま背を壁に預け目を瞑る私は寝ているようにも見えるのかもしれない。カイトが部屋に入ってきたことに気付かず、声を掛けられて漸くその存在を認識した。ゆっくりと瞼を上げると私のすぐ傍でカイトは私のであろう夕食を持って立っている。相変わらず女性が食べるような量じゃない。別に体調を崩しているわけでもないからガッツリ食べても問題はないが、それでも動いてない身体には多少きつい。修行後になら食べれるのかと言われれば、まあ、それもきついけど。カイトは持っていた夕食を私の膝の上に乗せると、ベッドに腰を下ろした。


「ありがとう、カイト」
「どういたしまして。で、何やってたんだ?一応言っとくが寝るならちゃんと布団被って寝ろよ」
「わかってるよ。念は禁止だから、点をやってたの。脚はある程度回復したけどまだガクガクしちゃうから、ほんとにこれしかやることなくてさ」
「なるほどな。ちゃんとストレッチはしたか?」
「ん、しっかりやったよー」


私の心配をする言葉ばかりでなんかだ他人事のように微笑ましく感じる。ふふふ、と笑う私にカイトは納得したのか、一つ頷いた。笑ってる理由をカイトに教えたら『真面目に言ってんだぞ』って怒られそうだ。私がずっとカイトを見つめてにこにこしているものだから、居心地が悪くなったのか目線を逸らすように食事を促す。


「…ほら、冷えないうちに食べろ」
「はあい」


合掌と一緒にお決まりの言葉を口にして、片手に箸を、片手に茶碗を手に取った。しかしいざ食べようと思うとその量の多さに気が乗らない。膝の上に置かれた夕食は言うほど重くないはずなのに重く感じる。これは多分気分の問題だ。いただきますと言ったのに一向に箸が動かない私に気付いてか「ちゃんと食えよ」と釘を刺された。


「うう…絶対太ってる…」
「……いらない脂肪がついたわけじゃないだろ。むしろ引き締まったと思うけど」
「お世辞をありがとう。でもそれセクハラって言うんだよ」
「セッ…!?」


クハラってなんだよ!!!という続きの言葉は聞こえない。まさかそう返事をされるとは思っていなくてショックだったのかもしれない。確かに脂肪は前より減って身体は引き締まったし食べた分燃焼できてると思うけど、筋肉って脂肪より重いんだぜ!!これ筋肉だってわかってても体重計乗ったら絶望するパターンに決まってんじゃん…。あ、でも体脂肪率には喜べそうな気がする。そんなことを考えながら夕食をつついた。


「そんなつもりで言ったんじゃない」
「うん、知ってる」
「…っ、じゃあ」
「でも私傷ついたなー。私だって女の子だしそういうこと言われるとほんと傷つくなー」


若干視線を俯き気味にして誤魔化しているが百パーセント棒読みだ。しかしカイトはそれに気付くことなく、ぐっ、となんとも言えない顔をしている。自分が悪いのか否か、相当悩んだんだろう「悪かった」と蚊の鳴くような声が耳に届いて思わず笑いそうになった。


「ね、カイト。悪いと思うならちょっとお願い聞いてくれない?」
「……言ってみろ」
「さっきまで身体動かしてたわけじゃないし、今日は絶対食べきれないなーって」
「さすがにそれは…」
「……引き締まった、ねぇ?」
「……………少し手伝う」


言質は取った。「ありがとう!」と発する声は先程の雰囲気と全くの別物で、カイトが気付いて騙されたと悔やんでも後の祭りというやつだ。


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