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「ほら、やっぱり駄目だったじゃないですか」
「知らん。最後まで走れただろ」
「そりゃそうですけど…身体自体壊れたら元も子も、」
「あーあーあー!うるせーうるせー!」
一瞬、夢の中かと思ったが段々と声がはっきりと耳に届いてきてぼんやりとだが意識が戻る。頭上で交わされる会話は大方私のことだろう。覚醒しきれてない頭でも容易にわかった。そうか、ジンさんに抱えられてから私意識失っちゃったんだ。
「お、ナマエ起きたか」
私が目が覚めたと先に気付いたのはジンさんで、その後を追うようにカイトも私を見下ろした。私が起き上がろうと腹筋に力を入れると筋肉痛か、少し痛く感じる。それでも寝ていたおかげで体力は回復していたらしくすんなりと起き上がることができた。ぽとり、額の上に置かれていた濡れタオルが落ちる。あ、冷たかった正体はコレだったのか。
「どうだ調子は」
「……大丈夫です」
大丈夫だと言ったのにカイトが無理をしてるんじゃないかと顔を覗いてくるから心配するなと笑った。それを見て満足そうに頷いたのはカイトじゃなくてジンさんだけど。気怠さを感じるどころか、怖いくらいにスッキリしている。色々と吹っ切れてるんじゃないかと心配になるわ。私が意識を失ってからどうやらそこまで時間が経っていなかったらしく、いや、三十分も寝ていたんだから短いとは言えないが、それでも短いほうだと思う。前は軽く二時間くらい気絶してたことがあるし。
「じゃ、修行戻るか」
「……はい」
渋々返事をしてベッドから降りようとしたまではいいが、立ち上がった瞬間、突然目線が低くなり、思わず「へっ!?」と間抜けな声が出た。言わずもがな、顔も間抜け顔である。まさか膝が抜けるとは思っていなかった私はその場に正座する形になった。……いやいやいや、マジかよ。そしてそれを目の前で見ていた二人の反応が、カイトは目を開閉させ、ジンさんは爆笑し始めるという感じなのだから、私は顔が熱くなる以外どうしようもなかった。爆笑するジンさんは腹立つけど、カイトみたいにマジかよお前みたいな目で見られるくらいなら爆笑されたほうがマシだ!!
「ひぃ…ぶふっ、ナマエ、どうした…くっ、ふ、言ってみろ」
「……声めっちゃ震えてますけど大丈夫ですかジンさん」
「ぶはっ!……ああ、全然、っ大丈夫」
キリッとしてんじゃねーよ!完っ全にわかってて聞いてるんだからほんとこの師匠ぶん殴ってやりたいわ!!キッと睨んでも今の私じゃ明らかに強がっているだけだし、そもそもジンさんには痛くもなければ痒くもない。さらに笑いを与えてるようなものである。くそっ、むしろ下を向いて顔を見せないようにしてやる。それが今の私にできる精一杯の反抗だ。
「……で、どうし、っぐ…どうしたんだ?」
「…て………す」
「おいおい、聞こえないぜ?」
「……立てないんです!!」
ああもうこの際やけくそだ!あなた達とは身体の出来が違うんだから笑うんなら勝手に笑え!!言われなくともジンさんはまた爆笑しだす。カイトはそれを呆れながら眺めていたのでなんだこいつも敵かと思ったが、私を持ち上げてベッドに戻すと、ワライダケを食べたように笑うジンさんを部屋から追い出してくれた。
「……しっかり脚を揉み解して、できる範囲でいいからストレッチしとけよ」
好感度がだだ上がりである。
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