Optimist | ナノ

覚悟が全然足りませんでした。



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関節がギシギシと悲鳴を上げてるのに「柔軟性が良くなってきたな」とほざくジンさんはどうやら耳が遠いらしい。どこが?ねえ、どこがなの?しかも背中合わせで体重をかけているカイトは手加減なしだ。


「死ぬ…死んじゃうジンさん…」
「これくらいじゃあ人間死なねーよ」
「……カイト」
「硬いままだと怪我するかもしれないんだからこれくらい我慢しろ」
「………」


味 方 が い な い !
カイトの言い分が間違っているとは思っていないが裏切られた気分だ。というか今日の柔軟いつもより長いんだけど量が増えるのと関係してるんだろうか。私としては柔軟で苦しむ時間が伸びただけのように感じるけど。

結局抵抗できないままヒィヒィ言いつつ柔軟を終えると今度はカイトの番である。私の苦しみを思い知れ!と言いたいところだがムカつくことにカイトの身体は柔軟の必要性を問いたくなるほどベタリと前に倒れた。知ってた!カイトめっちゃ身体柔らかいって知ってた!


「相変わらずクソだわ」
「口悪いぞ」
「キャーヤダーハズカシー」
「……はあ」


精一杯の可愛さを発揮したはずがわざとらしい溜息一つで流されてしまった。どうやらカイトには効果がないようだ。いっそ念能力で私の身体を重くして苦しませてやろうかと思いたくもなるが未だにジンさんとの修行で念については触れていないため実際に行動に移すことはない。まあ、移す移さない関係なしに、念能力は今のところ纏以外タブーなんだけど。

今(筋トレ)の修行内容の決まりとして“念能力を一切使わないこと”というのがある。理由は木に登るときでも飛んだりして敵からの攻撃を避けるときでも、私が念能力に頼りすぎてるからだとか。どうしてそんなことを知っているのかと訊けば実は三日間くらい監視してたって言われて思わず引いた。「女の子の生活覗き見するとかジンさんまさかそっちの気が…」「そうか、そんなにナマエは師弟関係を解消されたいか」と会話したのももう三週間前である。懐かしい。知りたくなかった事実とついでにあのとき円を広げて感じた違和感の正体もわかった。あれはジンさんの円が広げてあるところに私が円を広げたから重なるようになってしまい、それで違和感があったとか。正直ジンさんの円の中にいたなんて気付いてなかったからそんなのわかるわけない。そう言えばジンさんに呆れられた。

もし念能力を使ったらどうなるのかと言うと、毎回ジンさんの気分で左右されるペナルティが科せられる。ペナルティなんだから勿論のこと容赦ない。わ、私のためを思って心を鬼にしてジンさんは内容を考えているんだ…!と思えば心が楽になるような気もするが当の本人は楽しそうに笑っているのだから思いたいものも思えない。ならば念能力を使わない努力をしようと誓うのだが修行中突然ジンさんのほうから仕掛けてくるものだから何度も体験してしまった。


「………ぅう…っや、ばい」


腹筋がプルプルしてる。昨日の晩、カイトから言われた通り、筋トレのメニューが倍になった。朝は全て千回ずつだったものが二千回ずつに。全力で拒否したが「そうか、じゃあ仕方がないな」と優しい言葉が返ってくるわけもなく、現実は「は?やってみろ」だ。まず千回でさえ私死にかけてたんだよ?それわかってんの?と思いたいが突き放されたのだ、腹を括ってやるしかあるまい。そして今ようやく千三百回を超えて頑張っているところだった。千回を2セットならどんなに楽か。あの時のジンさんの言葉を思い出すだけで泣きたくなる。


『に、二千回って…千回を2セットですか…』
『いや、ぶっ通し』
『………んん?』
『あと今まで通り、一回でも途中で止めたりしたら最初からカウントな』
『……………んんん??』


耳掃除ちゃんとしているはずなんだけどなー…。
ジンさんの言葉がどうもおかしい気がして訊き返したが「現実見ろ」と言われて黙るしかなかったのが今まさに死に際を彷徨っている私である。


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