Optimist | ナノ

女どころか人間をやめるには人間をやめるなりのことをしなくてはいけないと改めて思い知らされた。



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「ギメイ…じゃなくて、ナマエ」
「んー?」
「…呼び慣れないな」
「あー、ごめんね」


ジンさんに弟子にしてもらってから三週間が経つが、カイトは今でもたまに私の名前を言い間違える。でも最初に比べたらかなり減ったほうだ。私もギメイと呼ばれてつい返事をしてしまうし、試験中ギメイで通してきたのだからカイトが慣れないのもしょうがないような気がしてつい苦笑いで謝ると、カイトから微妙な顔をされてしまい何かと思いはしたものの何も言ってこなかったので触れないでいいだろうと流すことにした。ちなみにジンさんが間違えることはない。カイトの話で名前を聞いていただけであって元は関わりが一切ないのだからギメイからナマエに切り替えるのは早かった。


「で、何か用事?」
「明日の修行のこと。と、ジンさんからの伝言」
「え、修行って内容一緒じゃないの?」
「あー…内容は変わらないが筋トレの量が倍になる、らしい」
「…………伝言は?」
「『覚悟しとけ』」


それ、わざわざカイトを使って伝えることだったのか小一時間問い詰めたい。私の今の修行内容は筋力トレーニング、所謂筋トレと走り込みだ。え?それだけ?と思うかもしれないが体力作りの基本なんだから当然といえば当然だし、これをそれだけという言葉で終わらせてはいけない。流星街にいた頃も同じようなメニューで体を鍛えていたがジンさんの考えるメニューは、量が、おかしいのだ。

毎朝四時に起床し、朝一の走り込み。準備ができたら外に出て二時間は走り続けなくてはならない。最初の一週間はこれが一時間だったが、それでも喉がひゅーひゅー言ってたし膝は笑ってた。それが終わったら朝食に入るのだが朝から二時間走ってすぐにご飯を食べろなんて苦行以外の何ものでもない。『朝は一番食わねぇとな!』と無理矢理食べさせるジンさんは悪魔…いや、悪魔なんて生易しいものじゃない。あの人は大魔王だと思う。泣きそうになりながらもなんとかご飯を胃に詰め込み終わると大体いつも七時手前くらいになっている。食べるのが遅いとジンさんやカイトによく言われるがそんなことはない。遅いんじゃなくて入らないんだよ!!!


「……筋トレってことはランニングは増えないのかな」

「………朝はともかく昼は増えてもおかしくないな」

「わぁ…」


泣いてもいいですか。そんなことを言いそうになった口を閉じてただただ笑うことしかできない私をカイトはまるで同情するかのように「頑張れ」と言った。ありがとう、カイト…私と同じメニューをすまし顔(のように私には見える顔)でやっているカイトももしかすると同じような道を通ってきたのかな…。すまし顔と言ってもカイトと私の筋トレ量が一緒なわけがないので勿論カイトのきつそうな顔は何度も見た。あくまですまし顔なのは私がやっている量までだ。

腹筋、腕立て、背筋、懸垂、スクワットを全て朝のうちに千回やるのはざらじゃない。昼はもっと量が増える。しかも必ず腕立ての後に懸垂をさせたり、昼食後はスクワットから開始して脚がガクガクなっているときに走り込みだ。この組み合わせ絶対狙ってやってるジンさんまじで呪いたい。

おかげで体力がついてきたものの、ある程度感覚が掴めてきたところで量を少しずつ増やしていくのだから慣れるものも慣れなかった。お風呂のときはゆっくり気を抜いていられるから好きだが最初は体に溜まった疲れのせいで何度溺れかけたことか。ジンさんやカイトに救出されるのは御免だったので毎回自力でなんとかしていた。


「……死なないかな、私」
「…最後の夜と思ってぐっすり眠れ」


やめろよそういう笑えない冗談言うの。


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