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漫画で知りました。ええ、全部、何もかも。あなたのことも、彼のことも、私、知ってたんです。



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“実は違う世界から来たんです私。”
言えればどんなに楽だったか。言ったところで頭のイカれた女だと思われたかもしれないが、もしかすれば信じてもらえる可能性はあった。漫画とは言わず、文献で念を知りましたとでも言い逃れることはできた。私の世界にはそういうものが知識としてはあるんです。使えませんけど。この言葉は嘘ではない。嘘ではないが私は言うことが出来なかった。たぶん、この世界が好きだから。

この世界に来て、初めて私が見た人間はラウさんだ。辺りを見ても知っている漫画の一部という印象しか受けなかった私はラウさんに出会ってこの人達は血の通った人間なんだと思った。だからこそ、漫画はもちろん、文献なんて言い方をしたら、この世界で頑張っている流星街のみんなを否定しているような気がして嫌だった。


「守りたい奴がいるから強くなりたい」
「はい」
「今のお前じゃ駄目なのか?流星街には念能力者がゴロゴロいるわけじゃなねぇだろ」
「……いないけど、今の私じゃ駄目なんです」


今の戦いに慣れてない私じゃ、連続殺人鬼は絶対に捕まえられないし、キメラアントも倒せやしない。それを思うと、強くなりたかった。ラウさんを守りたかった。ラウさんは私に守られるなんて死んでもごめんだとか言いそうだけど。


「お前の決意はわかった。だけどな、もし俺がそれでも駄目だとお前を突き放したらどうすんだ」
「……それでもここから一歩も動きません」
「………俺は一切お前のこと見ねぇんだぞ?」
「それでも私の気持ちは変わりませんよ」


失敗すればすぐに帰ってくると言った。だけど今の私は帰るつもりなんて毛ほどもない。私はジンさんから目を逸らさないし、ジンさんも捕らえられたかのように私から目を逸らすことはなかった。これを未だ腕立てをやっているであろうカイトが見ているのかはわからないが、ただ無言で互いを見つめ合う姿は異様だろう。先に折れたのはどちらか、溜息が聞こえる。


「わかったよ。勝手にしやがれ」
「…っありがとうございます!」


ジンさんが、認めてくれた。言い方はどうであれ、そういうことなのだ。思わず嬉しくなって正座したままの私は再び土下座の体勢になっていた。ジンさんの態度といい、言い草がきつかったから途中心が折れそうになったが、どうしよう、嬉しい。じんわりと目頭が熱くなるように感じて、下げていた頭を急いで上げる。ジンさんはジンさんで土下座されるのが嫌なのか、なんとも居心地の悪そうな顔をしていた。よかった、ほんとによかった!そう思うと顔は自然と笑顔になっていく。それからポロリと一つ大事なことを伝える。


「ジンさんとカイトに、一つ、嘘ついてました」
「は?」
「私、ギメイじゃなくてナマエと言います。以後、お見知りおきを!」


それはもう、花丸もらえるんじゃないかってくらい満点の笑顔で。


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テーマ「人外ファンタジー」
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