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「………念を、教えてくれた人は、いません」
「へぇ?」
まるで言い訳を考える子どものようにも見えた。なんて言えばいいのか、なんて言えば信じてくれるか、なんて言えば思うようにいくんだろうか、そんな顔だった。しかしそれが俺を嵌めようとしている意味ではないことは気付いている。ギメイがどういうやつなのか、ある程度資料が揃っていたからだ。
とはいってもギメイが実は変装の達人で、詐欺師で、ハンター試験中カイトを騙していたのならカイトから聞いた情報は全て嘘になるだろうから揃っていたとは言えないが。それじゃあ、一人のときは?俺もカイトも、自身以外は誰もいない、例えば“密林”の中。周りに自分しかいないと思い込んでいて、それでも演技を続けるか?俺なら答えは、否だ。
丸三日くらい、俺はギメイを尾行していた。カイトには俺の円に絶対に入ってくるなと言っていたおかげか、カイトがギメイに近付き、気付くことはなかったし、ギメイもまた、気付くことはなかった。そして俺はその間にギメイの身体能力やら性格などを観察した。その結果、身体能力はクソみてえだった。密林の動物共になんとか反応できたりしてるのは百パーセント念のおかげだと思っていいほど。あと絶が下手すぎ。一般人は誤魔化せても手練れの念能力者には利かねえだろ。
でも、教えてもらう人、要するに師匠がいねぇんなら念能力が未完成で不十分でもおかしくはない。おかしくはないが、ならばその念自体はどうやって知った?
「……でも、流星街には念を教えるような場所も、教科書もない」
「だろうな」
「……私が念を使えるようになったのは、念能力者に攻撃されたからです」
「念も何も知らなかった頃のお前が突然攻撃されて精孔が開いた。これは別におかしいことじゃねぇな。けどよ、どうして纏ができたんだ?お前を襲った念能力者はそんなにお人好し野郎だったのか?」
そうじゃねえだろ?そう言い切ってしまえば、ギメイはまた苦しそうに口を閉じた。別に俺はギメイの言うことを全て嘘だと思っているわけじゃない。ただ疑いはしてる。もしこいつの言ってることが全て事実だとしても、矛盾点がある限り疑うのは当然のことだった。ギメイはどうすればいいのかとむしゃくしゃしてるんだろう、太腿の上に置かれた手がズボンを掴み皺が寄っていた。俺はただ質問の答えを胡坐をかいて待つだけだった。それからぽつりぽつりと言葉が漏れ始めた。
「……お人好しそうな人には見えなかった。 攻撃されて、精孔が開いたとき…ああ、こいつこのまま死ぬなって思ったんだと思います…すぐにいなくなっちゃったので。 ……それで私は、纏をしなくちゃいけないと思った。 …でも無意識に…この白い湯気のようなモノを留めないと、って思ったわけじゃなくて…知っていて、意識的に。 私は元々念能力というモノを知っていたけど、それがどんな経緯で、どこで学んだ知識なのかは…お願いしている身ではありますが……教えられません」
「………」
ギメイが何と葛藤しているのかは、俺にはわからない。もしかしたらその知識を知った故、流星街に捨てられ、バラせば殺される立場なのかもしれない。ただこれは俺の中でポンッと浮かんだだけの物語にすぎないから、苦しそうな、哀しそうな、そんな顔で言葉を吐くギメイには当てはまらないだろうと思った。勿論ただの俺の勘だが。
「お前はなんで師匠を求める」
「……強く、なりたいから」
「強くなってどうするんだ?そういう仕事して、金貯めたら流星街から出るつもりか?お前だってハンターなんだろ。金が欲しいだけなら強くならなくてもハンター証売るだけで遊んで暮らせる金が手に入るんだぜ」
「……そうじゃなくて、私は、守りたい人がいるんです」
その瞳には、確固たる決意が見えた。
…守りたい人、ね。それは己のエゴなのか、そうじゃないのか。
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